田川 |
僕はふだん作・演出をやっているんですけど、自分のアイデンティティとして自分を劇作家だと思っているんです。橋本さんの芝居を前に観させてもらった時に、橋本さんのものではないテキストをやってたじゃないですか。今回は、どういう形で書いていったんですか?
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橋本 | 今回の『ワールド・イズ・ネバーランド』は≪ドキュメンタリーシリーズ≫っていう、俳優たちの記憶を基に作るっていうものの第二弾の作品なんです。で、二年前までは、台本を書いてたんですけど、
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田川 | あ、書いてたんですか?
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橋本 | はい。けど、演出したいのか台本書きたいのかっていうバランスが上手く取れていなくて、もともとどっちもやりたかったんですよ。けど、もともとインプットしてこなかったせいか、途中で台本を書けなくなっちゃって。その時に「よし人の話を聞こう」って思ったんですよ。
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田川 | あー、そういう感じは凄くしましたね。俳優に興味がある、っていうのは、もちろんだと思うんですけれども、自分以外の他者に興味があるんだなって。僕と凄い逆だなって思ったんですよ。僕、全く他人に興味がないんですよ。
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橋本 | 興味がなくても台本って書けるんですか?
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田川 | えっと、人に興味はないんだけど、自分に興味があるんですよ。だから、自分のことしか書かなくて。
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橋本 | あぁ。
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田川 | 今回の芝居は、どこまで橋本さんが書いてるんですか?
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橋本 | ほぼ俳優たちに話してもらっただけで、僕は書いていません。会話のシーンも「雪」「月」とかいうお題を与えて1分間フリートークしてもらったのをそのまま使っています。後半の教室のシーンも即興でやらせたものをそのまま使っています。今回出演者に男子が多くて、あんな感じのノリになりました。
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田川 | 話が、誰かが話しているのが、どんどん誰かに書き換えられいくじゃないですか。そういうのも橋本さんの指示じゃなくて、俳優たちのものなんですか?
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橋本 | そういうことをするっていうのは、僕の指示なんですけれども、書き換えるタイミングとか内容は俳優たちにお任せしました。稽古で30分間放置して、色々やってもらって、それらをまとめました。
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田川 | この舞台で起こっていることに横からつっこみをいれるとか、今日家出る前にニコ動みたからってのもあるんですけど、凄い似てるんですよね。一人の主観だけじゃなくて、色んな自意識をわーって出したい感じとか。最後の話が書き換えられるのって、「同人誌」だなって思いました。
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橋本 | (笑)
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田川 | 僕とかは言葉を聞かせたいのがあって。ニコ動ってやっぱり見ると凄いじゃないですか。ここで起こっていることに、わーって突っ込みが入ってくるっていうことの面白さを、この芝居で凄く観れて。前の芝居よりも凄く洗練されていましたね。
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橋本 | ニコ動は見る時は凄く見るんですけど、内容っていうよりもどのシーンでどういう文字の流れ方がするのか、大きさとか色とか見るのも好きなんですよ。だから、今回はそういう意味で言えば、どんな話を舞台で俳優にしてもらっても構わないんですよ。言葉っていうものを、その他の現象と同列にしたいんだんぁと、今回作ってみて再認識しました。
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田川 | 事前に台本を読ませて頂いて、作・演出やってると、台本書いている時点で、「ここで笑わせよう」「ここで盛り上げよう」とか考えるんですけど、本来それって演出の仕事だと思うんですよ。けど、混じってきちゃうところがあって、僕は言葉のレベルで「ここで盛り上げて、ここで落とす」っていうのを計算しているんです。だから橋本さんが書いたというかまとめた台本を読ませてもらったら、そういう計算があって出来たものじゃなくて、けどここでできたのを実際に観ると、ちゃんと95分をどう埋めるかっていう計算が凄くされていて、だから、他人に興味があるんだなって(笑) |
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橋本 | 他人の情報とか記憶を扱っているので、人によっては全く興味が持てないものが目の前でやられてたりすると思うんですけれども、そういった色々な視線を、自意識みたいなものを、舞台に立っている俳優たちに与えて立ち上がるものが見たくて、囲み舞台にしました。自意識ってなんだって話ですが(笑)
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田川 | (笑)例えば、台本を書いている時というか、作品を作る際に、橋本さんの自意識を扱うってことはないんですか?
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橋本 | 自分の自意識とか、やりたいことっていうのでは作らないですね。人の記憶をまとめるっていう作業をすると、どうしても計算して配置をする必要が出てくるんですけど、大抵そういうテキストはボツになるんです。自分が何かやりたいってはじめから思っているものというのは、ほぼつまらないものなんです。だから、このシーンとあのシーンを入れ替えてみよう、とか、無神経にシーンを変えた方が新しく発見があるというか、自分の意図してないものを見たいですね。
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田川 | あぁ、じゃあ台本を書いてるっていうよりも、橋本さん自身が、アーキテクチャというか、俳優たちの自意識を集めて、で、
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橋本 | ぼんやりと眺めてる(笑)
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田川 | 台本書いてて書けなくなったっていうのは、よく台本を書けなくなった人は「自分になにもないというのが分かった」って聞くんですけど――
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橋本 | そうですね。自分から生まれるものは、もう何もないと思っています。
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田川 | (笑)今日観ていて、やっぱり大衆の自意識って凄いなって思いました。
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橋本 | 観客が入ってはじめて成立する作品を作りたかったんです。もちろん稽古では、観客を想定してやってるんですけど、まぁ、俳優たちはやりづらいですよね(笑)けど、やっぱりそういうものを作りたいんですよね。
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田川 | 多分前に観させてもらった時と、核は変わってないと思うんですけど、面白い/面白くないとかじゃなくて、なんか掴んだなぁと(笑)思いました。
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橋本 | 「自分は駄目だ」っていうのは分かってきました。
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田川 | (笑)えーと、なんか俺の悩みになっちゃうかもしれないんですけど、こういうの観た時とかに、最近の――まぁ俺もそんな歳じゃないんですけど(笑)、俺より若い人たちの作品って、自分の中にあるなにかを出してくるっていうよりも、自分の主観じゃなくて、客観というか色んな視点を入れたりして、乖離的というか分散させてる気がして。それがさっきは「大衆の自意識」って言い方をしたんですけど、だから「作家の自意識」ってどうなんだろうなぁっていうのがあって(笑)刺激になりましたね。まぁ、俺は自分がやることをやるしかないんですけれど。
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橋本 | 今回、ステージによって全然反応が違うんですよ。お客さんの。味戸の「ハイチュー」で大ウケしたステージとかあって、
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田川 | そうだよね。絶対、そうだよね。
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橋本 | 「なんでハイチューで笑ってくれるんだ!」とかびっくりしたんですけど。
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田川 | いや、だって、演劇観て、無理やり関係付けられて、自己紹介されて、自分が演じているのを「見ないで」ってやってる役者本人に言われて(笑)
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橋本 | すいません(笑) |
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田川 |
この芝居ってどれくらいの期間で作ったんですか?
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橋本 | 二ヶ月弱ぐらいですね。11月の頭から稽古開始しました。
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田川 | 稽古方法自体って決まってる?それとも作り方自体から決めてる?
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橋本 | 作り方から毎回決めていますね。僕は方法論みたいなのは持ってなくて、俳優たちによって変えちゃうんですけど。今回の座組みは、ブルーノプロデュース常連組から初めての人たちまでバラバラで、自分でも新鮮でした。それもあってか、団体の特性とか性質をこちらで把握するのに時間がかかりましたね。
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田川 | あぁ。
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橋本 | まぁ、大体稽古場行って決めます(笑)
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田川 | 「私は――」って喋りだすのって、あれは本当のことも混じってるんですか?
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橋本 | 基本的には本当ですね。けど、そこから飛躍もさせてるんですけど、ベースは本当です。けど、時々嘘もつきますけど(笑)
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田川 | そう、そこが何層にもなってて面白かった。
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橋本 | 前回の≪ドキュメンタリーシリーズ≫第一弾の『カシオ』って作品は今回みたいに飛躍とか色づけとかしなくて、ただ淡々と記憶を語ってもらったんですよ。だからその反動というか、記憶を脚色したり英雄的に語ったらどうなるのか、とても興味があって、今回みたいになりました。
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田川 | 俳優が稽古場で本当のこととして語ったことでも、こちらから本当に真実かどうかとか聞けないですよね。
(笑)
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橋本 | 多分いないとは思うんですけど、全部嘘でしゃべってる人たちがいたら、
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田川 | (笑)
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橋本 | その判断は僕にはできないです。
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田川 | そうですよね。関係ないかもしれないんですけど、こないだどっかで知った話なんですけど、もともと人の脳っていうのは手抜きだから、一回見たものって、もうほとんど見ないらしんですよ。ものがあったとして、それを一度見たら、「あるもの」として脳が処理するんですって。見てるようで見てなくて、脳がそこで再現してるだけなんですよ。だからもしちょっと変わってたとしても、同じものとして処理しちゃってるらしくて。
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橋本 | ……凄いですね。
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田川 | だから、身体が記憶を語るっていうこと自体がすごく曖昧なことで、その主体が全然信用ならない。 |
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