2009/12/18-20 ブルーノプロデュースvol.2 @サブテレニアン
「カシオ」橋本清
1□2□3□
4□5□6□
7□8□9□
大野香織
重岡漠
スズキヨウヘイ
武田篤
日高愛美
細木香代子
本田静香
牧野可奈絵
吉川綾美
和田菜美子
橋本清
【0】小学校の教室
※ 客入れ中に作文を書いている。
5マスがあいている。
「冬休みのこと」牧野可奈絵
私は冬休みに、友達4人で雪の日にあそびに行きました。私たちは雪をなげつけながらあそんでいましたが、しだいにつかれてきたので、次は雪だるまを作りました。そのためにまず、
雪を集めようと、私の家の大きなシャベルを使ってざくざくしていたら、悪ノリでふざけすぎた男子二人が、コンクリートにシャベルをたたきつけた時、そのシャベルがこわれました。
私はとてもおこりました。こわしたのは、好きな男の子だったのですが、私はその頃好きな子にはいじわるをする子だったので雪をなげつけたり、雪の山につきとばしたりしました。そ
れがむしょうに楽しかったです。雪だるまは可愛いのができました
拍手。(雪が降る)
「私の冬休み」本田静香
今年の私の冬休みは、まず冬休みも宿題からはじまりました。算数のドリルがすごく難しくて、泣いていたら、お母さんに塾に行きなさいと言われて、もっと悲しくなって泣きました。
算数のドリルは三日間かけて終わらせることができて、すっきりした気持ちでお正月をむかえることができました。
お正月には、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行きました。私はおじいちゃんとおばあちゃんが大好きなので、久しぶりに会えてすごく嬉しかったです。一月一日はおじいちゃんと
トイザラスに行ってバービー人形を買ってもらいました。ずっとほしかったバービーだったのですごくうれしかったです。残りの冬休みはお父さんとバービー人形で遊んでもらって過し
ました。何にもなかった冬休みだったけど、すごく楽しい冬休みでした。
拍手。(雪が降る)
「鹿児島での年越し」日高愛美
今年の冬休みは、十二月三〇日から一月三日にかけて、鹿児島のおじいちゃんとおばあちゃんの家に行きました。大晦日の夜は紅白歌合戦をみんなで見ました。それを見ながら、年越
しそばを食べたりしました。
私は和田アキ子さんが大好きです。和田アキ子さんの歌を歌いながらソファで飛び跳ねていたら、勢いよく飛びすぎて目の前にあるガラスの板に激突し、鼻の骨を折りました。鼻には
かさぶたができ、コアラみたいな鼻になっちゃって最悪な年越しでした。
でも、次の日の元旦ではみんなからお年玉をもらえて、合計八万円という額が手に入りました。まぁいっかなぁ~。その八万円は次の日に買った福袋に全部ついやしました。
拍手。(雪が降る)
「サンタさん」武田篤
冬休みに入って、雪が降ってきました。僕は友達と外でかまくらをつくったり雪だるまをつくったりぶっ壊したり、雪合戦が熱くなってなぐり合ったりしました。家ではゲームをやり
たいのだけどお母さんに1時間までしかやっちゃダメと言われてます。欲しいソフトがあるのでサンタにもらうと親にいいました。が、欲しいのが2つあるので親に「サンタはクリスマ
スプレゼントくれるのに、実の親はくれないの?」とせがんで買ってもらいました。
拍手。(雪が降る)
「つうがくろのとり」大野香織
通学路の途中に、わき水が出ているわき水公園があります。わき水公園は普段、つり目的のおじさんが潜きょしていますが、冬になると寒くて遊ぶ人も少なくなります。冬になると水
面の表面がこおりついて、まわりの土はしもが立ちます。つりのおじさんがいないので、誰もちかよっていないようですが、冬には冬だけの来客があります。しらさぎみたいな大きな白
い鳥です。毎回いるわけではないのですが、朝、れつになってつうがくはんであるいていると、よく水ぎわに来ています。あの鳥はとてもきれいで一羽でいつもきていて私はたのしみで
したが、お母さんやお父さんは知らないだろうと思います。私は通
拍手。(雪が降る)
「冬休みの思ひ出」吉川綾見
冬といえば、こたつでしょう。私の家の居間にはこたつがあるので一日中こたつ虫になります。こたつに入ったままみかんんも食べるしテレビも見れるし昼寝もゲームもできるのです。
もちろんトイレは行きます。
私は熱しやすくあきやすいタイプなので、ゲームの「牧場物語」を冬にやりたくなり、春にあきるというジンクスがあります。しかも、最初の一年目から毎回始めるので、結局いつも
三年目の春までしかいきません。たしか四年目か五年目でゴールなのです。そうそう、つまりゲームはクリアしたことがありません!ポケモンも最後の手前で終わりました。
でも、冬休みの間中は、「牧場物語」をやるんです。毎年。終わることはないのに。
人間って不思議ですね。
毎年終わらせるつもりでやるんですから。
拍手。(雪が降る)
「冬休みのあけましておめでとう」細木香代子
今年の冬休みは家族とおばあちゃんとおじさんとでスキーに行きました。毎年行っている、長野県の軽井沢にある「ホテルタキモト」という宿です。今年も三十日の夜中に出発して、
三十一日の朝に着きました。一面真っ白で、とてもきれいな風景でした。その日の夜は大みそかなので、ホテルで頼んだ年こしそばを食べました。月見にしました。紅白とドラえもんを
交互に見ていました。今年は白でしたね。そろそろ年が明けるということで、ホテルの近くの神社に、父とおまいりにいきました。私は「別にいい。」といったのですが、父が「こうい
うものはやるものだ。」といったので、おみくじをひきました。吉が出て、なんだかなあと思いました。寒かったけど、知らないおじさんがすれちがったとき「あけましておめでとう」
と言ってくれて、日本はいい国だなあと思いました。
拍手。(雪が降る)
重岡が現れる。
「白いグラウンド!」すずきようへい
ぼくは、サッカー少年団にはいっています。年が明けてすぐの一月四日に、「初蹴り」という行事がありました。その通り一年で最初の練習なのです。
この日は珍しく大雪で、いつも練習に使うグラウンドが真っ白になっていました。練習は体育館で行うほかなかったです。とても妙な気分になりました。
午前の練習が終わり、そのまま体育館でお昼ごはんになりました。みんなの親がお弁当を作ってきたり、豚汁が出たような覚えがあります。寒い中のあたたかいものは格別です。それ
をみんなで食べるというのもまたいい。
ご飯が済んで、なんとなく自由時間になりました。僕はなかさんと、サトケンたちと一緒にサイダーを持ってグラウンドに行きました。雪にサイダーをかけて食べるためです。やって
みると普通です。でも楽しかったです。
この日のグラウンドのことは忘れません。
拍手。(雪が降る)
重岡が5マスにある原稿用紙を読み上げる。
「わたしの初恋と変質者(実話?)」和田菜美子
私の初恋は小6でした。同じクラスの直人くん。剣道をやっていて、かっこよかった。それで好きで好きでしょうがなくて、クリスマスイブ、自宅にいた私は家電で彼の家に電話しま
した。ドキドキしてしょうがなくてガクブルガクガク。お母さん?が電話にでて、「和田ですけど直人くんいますか?」っていって、かわって、「あのーすきです」とか言っちゃっ
て、、、付き合いました。だから付き合ったきねん日は12月24日でした。
しばらくして変質者にキスされました。同じマンションの、あやしい人でした。近付かないように、って言われてた人でした。ファーストキスだったのに、、、。きもちわるいっ。
その彼とはすぐ別れてしまいました。理由はクラスでウワサが広がったから。マンションはこわい。
拍手。(雪が降る)
重岡 ぼくは、小学生の頃、和田菜美子という女の子にいじめられていました。とても辛かったです。でも、今、その子のことを、思い出そうとしても、無理なんです。どんな顔だった
のか。とか、どんな声だったのか。とか、ちゃんと思い出すことができないんです。僕が最後の小学生だったあの冬は、色々なことがありました。楽しいことも、嫌なことも、沢山あり
ました。僕は、あの頃のことと向き合うことができないまま、いつも、昔をぼんやりと思い出しています
みんなは重岡の方を向く。
手拍子をしだす。(雪が積もり始める)
重岡は、恥ずかしくて原稿用紙が読めない。
【1】教室
スズキ 窓の外を見てください。雪が降っています。先生は、積もっている雪よりも、降っている雪の方が好きなのですが、子供の頃、どうして雪が降ると、あたりが独特な空気になっ
てしまうのかが、先生には分かりませんでした。みんなは分かりますか?
沈黙。
スズキ 雪って言うのはですね、周りの音を吸い込む性質があります。音は空気の密度の粗密波で伝わってゆきます。粗密波というのは、音を伝達する空気の振動です。雪などの物質が
空気中に存在すると、空気の振動が雪に吸収されて、音の伝達が妨げられます。そのため、雪が降ると、とても静かな世界が生まれます。例えば、
三拍子で手を叩く。
牧野 シャベルの音。
全員 ざくざく。
本田 女の子の泣く声。
全員 うわーん。
日高 ソファで跳ねる音。
全員 ぼよーん。
武田 殴り合う音。
全員 ドゥクシ。
大野 わき水の音。
全員 チョロチョロ。
吉川 こたつでごろごろする音。
全員 ごろごろ。
細木 スキーで滑る音。
全員 スイーっ。
スズキ サイダーの音。
全員 シュワー。
和田 ドキドキする音。
全員 (全員立つ)ドクンドクン。
その場に座る。
スズキ これらの音は、雪に吸収されて聴こえなくなります。雪は、全ての音を食べます。その音を吸収します。じゃあ、吸収された音はどこにいくんでしょうか。それを再び聴くこと
はできるのでしょうか。それは先生にも分かりません。そもそも全ての音を人間が聴くことは不可能なのです。人間には可聴域というものがあり、そこからはみ出てしまった音は、認識
することが難しくなります。さらに、年月が経つことによって、この可聴域は低下します。20代前後をピークに聴力が低下し、子供の頃に聴き取れた音が、大人になってみたら聴き取
れないこともあります。音は記憶と似ている気がします。音も、記憶と同じように誰かの頭の中に残っているのではないでしょうか。さきほどの、雪に吸収された音も、きっと思い出そ
うとすれば、また聴ける
と先生は信じています。最近、雪が降っているあの季節のことを思い出します。
()は、ウィスパーボイス。
全員 本日は、ブルーノプロデュース第二回公演「カシオ」にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。開演に先立ちまして、お客様にいくつかご案内(申し上げます)。携
帯電話は電源からお切りくださるようお願い致します。また、本日の上演時間は、(100分)を予定しております。途中休憩はございません。なお、この作品は、フィクション(じゃ
ないです)。実在の人物・団体・事件などには、関係(しております)。
三拍子で手を叩きながら、立ち上がる。
スズキ 最後までごゆっくりおたのしみください。
【2】豪雪
手を叩く。
牧野 シャベルの音。
全員 ざくざく。
本田 女の子の泣く声。
全員 うわーん。
日高 ソファで跳ねる音。
全員 ぼよーん。
武田 殴り合う音。
全員 ドゥクシ。
大野 わき水の音。
全員 チョロチョロ。
吉川 こたつでごろごろする音。
全員 ごろごろ。
細木 スキーで滑る音。
全員 スイーっ。
スズキ サイダーの音。
全員 シュワー。
和田 ドキドキする音。
全員 ドクンドクンドクン。
重岡が手に持っていた原稿用紙が吹き飛び、追いかける。原稿用紙を取り戻し、読み始める。
「冬休みの思い出」重岡漠
すごいたくさんの雪が降りました。すごい南の方だからあまり降らないのに、めちゃくちゃ降った日があって、帰り道がめちゃくちゃ楽しかった。自分の家を通り過ぎて隣の学校まで
行っちゃって、そこからの帰り道は一人きりだったからさみしかった。一人では雪だるまも作る気が起きなかったから真っすぐ帰った。でも家に着くと、家の庭も雪だらけで、日が暮れ
ても外灯の光りを頼りに一人で雪だるまを作ってみた。めちゃくちゃこってみて、ちゃんと目とか鼻とかも、家の冷蔵庫から探し出して雪だるまにくっつけた。自分と同じくらいの身長
の雪だるまができた。土がまじってて、少し汚ない感じだったけどすごい満足感だった。次の日の朝になってもまだあったけどもう興味はなかった。だんだんちっちゃくなってって、最
後はけって壊した。晴れの日のが好き。
【3】高校生のひろしの部屋
重岡以外、去る。
5のマスに重岡が一人、立っている。
1マスを移動する時に、原稿用紙1マス分の文章を読む。
吉川が現れる。
吉川 ひろしー。
重岡 (原稿用紙を読んでいる)
吉川 おーい。ひろし。
重岡 (原稿用紙を読んでいる)
吉川 起きなさい。
吉川がマスに入る。
重岡 おはよう。
吉川 おはよう。
重岡 うん。
吉川 行こう。
重岡 (原稿用紙を読んでいる)
吉川 なにやってんの。
重岡 課題。
吉川 え。なんで。
重岡 (原稿用紙を読んでいる)
吉川 そんなの後にしなって。
重岡 もうちょっとだから。
吉川 バカが課題できんの。
重岡 できるよ。バカ。今、行くよ。
吉川 今っていつ。
重岡 だから、まってって。
吉川 またない。
重岡 うっさいなぁ。
吉川 うっさいじゃないでしょ。
重岡 ブス。
吉川 こらっ。
スズキが現れる。(9の前に立つ)
スズキ おーい。
重岡 (重岡だけ聞こえる)え?
吉川 どうしたの。
重岡 お父さんの声。
スズキ 頑張ったのか、ひろし。
吉川 (吉川にも聞こえる)ほら、来ちゃったじゃん。(スズキに)お父さん、今、行きます。
牧野が現れる。(7の前に立つ)
牧野 おーい。
重岡 (重岡にだけ聞こえる)え?
吉川 どうしたの。
重岡 お母さんの声。
牧野 はい、牛乳。
吉川 ほら、来ちゃったじゃん。(牧野に)お母さん、今、行きます。
重岡 今、行きます。
吉川、重岡を攻撃する。
重岡 いってーな。
吉川 あんたが来ないから、こうなってんでしょ。
重岡 どこ行くの。
吉川 居間でしょ。
重岡 今?
吉川 じゃなくて。居間。コタツの置いてある居間。
細木が現れる。(8の前に立つ)
和田 (鳴く)
重岡 (重岡だけに聞こえる)姉ちゃん。
吉川 なに。
重岡 聞こえないの?
吉川 なにが。
重岡 なんでもない。
吉川 いいから、行くよ。
重岡 どこに。今?
吉川 違う。居間。昔。
重岡 昔?
吉川 今より大分、昔、あんたが小学校6年生の時だった、昔。
重岡 えぇ。
吉川 冬休みの前の、重岡家の朝食の記憶。
外のマスにいる家族を見せる吉川。
重岡 もうすぐセンターなんだから。勉強させて。
スズキ・牧野・細木 おーい。
重岡 ちょっとまってよ。今、行くよ。
吉川 よし。
重岡 え。あ。今のは違う。
吉川 行くよ、ひろし。
重岡 あー、もう、わかったよ。
吉川 せーのっ。
重岡 え。
吉川 いいから、私のマネすればいいの。今、行きます。
重岡 なにそれ。
吉川 いいから。
重岡 居間、行きます。
吉川 せーの。
重岡 えー。
吉川 せーのっ。
吉川・重岡 今、行きます。/居間、行きます。
【4】小学生のひろしの居間
家族が手を合わせる音。
父(スズキ)9、母(牧野)1、弟(重岡)7、姉(吉川)3、猫(細木)5
家族全員がコタツ(5)でくつろいでいる。
朝の家族の記憶。
全員 いただきます。
吉川と重岡がご飯をかきこむ。
細木 (鳴く)
スズキ おー、かよ、おいしいか。
牧野 そんなに急がなくても。
吉川 ひろし、ダッシュ。
重岡 (食事を喉に詰まらせる。)
牧野 ほら。もう。
吉川 ごちそうさまでした。
牧野 え?もう。
細木 (鳴く)
スズキ 早いなー、かよ。
吉川 行ってきます。
牧野 まだ残ってるでしょ、ご飯。
吉川 ごめん、お母さん。ひろし、先に行ってるから。
重岡 あ、まって。
牧野 ひーくんは、いいの。
重岡 でも。
牧野 あ、あやみ。
吉川 なに。部活に遅刻しちゃうの。
牧野 お弁当持った?
吉川 あー。
牧野がお弁当を取りに行く。
吉川 お母さん、早くー。(と、鈴木の頭を支えにする)
スズキ いたっ。
牧野 はい、お弁当。気をつけてね。
吉川 うん。行ってきます。
牧野 行ってらっしゃい。
吉川、家を出る。
9の前に座って待機。
重岡 ごちそうさまでした。
牧野 え、ひーくん、もう食べたの?
重岡 うん。頑張って食べた。
スズキ (ご飯を食べるのを止める)え。頑張ったのか、ひろし。
重岡 うん。無理した。
スズキ ………ごちそうさまでした。
牧野 お父さん。
重岡 行ってきます。
牧野 あ、牛乳。
重岡 え?
牧野 まだ飲みかけ。持っていきなさい。
重岡 なんで。
牧野 もったいないでしょう。折角、毎日注文してるんだから。飲みながら学校行きなさい。
重岡 こぼしちゃうよ。
牧野 だから、走らなくていいの。
重岡 でも、時間が。
牧野 走って怪我するより、マシだから。それで遅刻して、先生になにか言われたらすぐにお母さんに言う。
重岡 ……わかった。
牧野 はい、牛乳。
重岡 行ってきます。
牧野 行ってらっしゃい。
重岡 お父さん、行ってくるね。
スズキ おう。今日も学校、楽しんで来るんだぞ。
重岡 行ってきます。
重岡、家を出る。
8の前に座って待機。
牧野 あんなに慌てなくてもいいのに。
細木 (鳴く)
牧野 最近の子供って、みんなああなのかな。
細木 (鳴く)
スズキ どうしてでしょうねー、かよちゃん。
(★)同時進行で、マスの外にいる重岡と吉川の会話。
★重岡 なにこれ。
吉川 重岡家の記憶。
重岡 うそ。
吉川 次は小学校。
重岡 やだ。
吉川 行くの。
重岡 やだ。
吉川 あんたは、あっちね。
重岡 え、姉ちゃんは。
吉川 私は、高校。
重岡 あ。そっか。
吉川 道、覚えてる?
重岡 身体が勝手に動くよ、多分。今のみたいに。
吉川 よし、じゃあ、行こう。
★牧野 遅いの、あなたは。
スズキ え。
牧野 ご飯、全然減ってない。
スズキ あー。うん。
牧野 かよちゃんなんか、もう半分も食べてるのに。
細木 (鳴く)
スズキ おー、かよ、おいしいのか。
細木 (鳴く)
スズキ おいしいなら、お父さんも食べれるぞ。
牧野 お父さん。
スズキ ごめんごめん。
牧野 じゃあ、そろそろ私も。
スズキ うん。
牧野 パートに行ってくるから。
スズキ おう。
牧野 かよちゃん、よろしく。あと、洗濯とか、色々。
スズキ あぁ。
牧野 あと、食器も洗ってね。
スズキ うん。
牧野 洗濯ちゃんと見ててね。最近天気悪いから。
スズキ わかったよ。
牧野 あと、仕事もらえたら電話ちょうだい。奮発するから、晩御飯。
スズキ 頑張るよ。
牧野 うん、家族のためによろしく。
スズキ 行ってらっしゃい。
牧野 行ってきます。
牧野 家を出て、右に曲がって、四つ目の家を抜け、角を右に曲がると、製紙工場。右手に石黒さんの家を通りすぎます。次の角を右に曲がるとおばあちゃんちがあるのですが、うちで
はないのでそのまますぎます。まだまだまっすぐです。★横断歩道が見えます。緑のおばさんとあいさつをして渡ります。次に右側に見えるのは香取公園です。まだまだ歩きます。右側
は職場の事務棟です。まっすぐ進むと、右手に職場の門が見えます。
★重岡 ねぇ。
吉川 なに。
重岡 お父さんたち、こんなこと話してたの。
吉川 そうだよ。
重岡 ………。
吉川 大人になったら、分かることいっぱいあるでしょ。
重岡 ……わかんない。
吉川 行くよ。
【5】通学路
重岡と吉川が立ち上がり、マス内に入る。
細木とスズキは、じゃれあっている。
★吉川 家を出て、(9)二号棟を左手に(6)真っ直ぐ進んで、(3)赤い広場を通り抜けて、(5)歩いていくと、(7)児童館が右手にあります。(4)そこではドンジャラをし
たり、(5を向く)バスケをしたり、(5)パラッパラッパー。をしました。(2)ここでは鬼ごっこをしたり、(振り向く)とにかく走りまわりました。(3、6、9、8、7)左手
には白い公園があります。(立ち止まる)ここにはちょっとめんどくさい思い出があります。そうしていると、(4)七号棟につきあたるので、(1)右に曲がります。(2)左手には、
(左を向く)六号棟が近くに見えます。右手には(右を向く)私の高校が見えます。一つ目の角を(3)右に曲がり、(6)高校に沿って真っ直ぐ歩きます。(6、9)すぐ右手に高校
の正門があるので、門をくぐります。(8)グラウンドを抜けて、(7、4)階段をのぼって、(1、4、7、4、1、4、)2階の2の2が私の教室です。(7)
★重岡 家を出て、(9)二号棟を右手に(4)真っ直ぐ進んで、(1)眼鏡屋を右に曲がって、(2)歩いていくと、(3)ケーキ屋で右に曲がって、(6)そこから国道に沿って、
(5を向く)真っ直ぐ進むと、(5)原っぱ、原っぱ。があります。(4)何もない公園があって、(1)ここでは鬼ごっこをしました。(2、3、6、9、)赤土がとれる。(しゃが
む)キャッチボールができます。(立ち上がる)団地を横切って、(6、3)広い階段を下ると(6、9)大きい道路が見える。そこの階段で壁蹴りとか壁登りとかで何時間も遊んだ。
(3、6、9の繰り返し)左に行くと、(2)よく強盗に入られる家が見えます。右に行くと、(3)謎のベンチがあります。ちょっとした上り坂を左に上がる。(2、1)すぐ右手に
古い大きな家があって、左には犬のいる家。(左を向く)古い家からはなんかみかんみたいなのがはみ出てる。犬はめっちゃ吠えてきてた。(2)右手にある真っ白い家を見つつ、左に
曲がる。(振り向く)住宅街。(2からすべてのマスを見る)
重岡 すると、町の真ん中に、大きな家が見えます。昔、お父さんが建てた家です。
スズキはマスの外へと去っていく。(細木5)
重岡 また階段を上がる。ちっちゃい公園がある。ちょっと変わったシーソーとパンダのゆれるだけの乗り物。またまた階段。あ。牛乳が。それを上ると、目の前に酒屋さん。小学校の
門に入る。6の4が僕のクラス。
【6】小学校の廊下
大野が現れ、9のマスに行く。
大野 みんなー、三分前だよ。あ、ひろし。
重岡 かおりん。
大野 おはよう。
重岡 おはよう。
大野 ギリギリ、
重岡 セーフ?
大野 アウト。
重岡 えぇ。
大野 ひろし。
重岡 なに。
大野 なんか臭わない。
重岡 え。
大野 すごい臭い。
重岡 ………。
大野 ひろしの近くから臭うんだけど。
重岡 え、うそ。
橋本 (臭いを嗅ぐ)
重岡 えーと、学校行く途中の道で、こう牛乳をこぼしちゃって、はじめて道端で上半身裸になっちゃって。
大野 なんだ。
和田 おはよう。
和田が登場。(5)
大野 あ、和田さん。おはよう。
和田 なにしてんの。
大野 ………。
和田 え、なに。
大野 ううん。あ、もうすぐ三分前だから、席について。
和田 はーい、わかりました。委員長さん。
大野 ………。
和田 ひろし、いたんだ。おはよう。
重岡 おはよう。
和田 大野さん、ひろしには優しいんだね。
大野 え?そんなことないよ。
和田 そんなことないよ。
和田、5のマスに座る。
重岡 行こう。
大野 うん。
と、細木がダッシュで、現れる。
大野 細木さんも、三分前だよ。
細木 ………。
大野 ギリギリセーフだけど。
重岡 僕は。
大野 ひろしは朝の会、出てないでしょ。
細木、3のマスに座る。
大野 みんなー、三分前だよー。一時間目始まるよー。
全員 はーい。
スズキ以外が駆け込んでくる。
【7】小学校の教室
大野1、重岡2、細木3、和田5、日高6、吉川7、牧野8、本田9
スズキが現われ、マスの外。
スズキ これがそろばんです。そろばんの周りのふちを枠。真ん中の、白い線の入ったものを梁、珠が通る竹の軸のことを桁と言います。梁から上のことを天。梁から下のことを地と呼
びます。各部の名所に建築用語が使用されているのは、日本でそろばんを作り始めたのが宮大工や指物師の人たちであったからです。
そろばんを生徒に配る。
スズキ そろばんで計算することを珠算と呼びます。今日の授業は、珠算をしたいと思います。まず、定位点と呼ばれる、特定の場所を自分で任意に指定し、その部分を一の位として、
その左側を十の位、さらにその左側を百の位とします。梁の上にある珠は五珠と呼ばれ、5の数字を表します。これに対して梁の下にある珠は一珠と呼びます。それぞれの位はゼロを表
すときには五珠は上に、一珠が下に下げられます。そろばん全体を手前が下になるように傾けて全ての珠が下におりるようにした上でそろばんを平らに戻し、人差し指を左側から右へ梁
と並行に横に動かせば、ゼロになります。これに戻すことが電卓でいうところのオールクリアの操作となります。そろばんではこれを「ごはさん」と呼びます。みなさん、いいですか?
全員 はーい。
スズキ では、続いて、数の表し方です。一珠の一番上の珠を、親指を使って上に上げます。これが1です。
生徒達、1を作る。
スズキ 2は、さらに一珠を追加します。これも親指です。3、4、ときて、一度4を払いましょう。払うとは、なくすということ。これは親指ではなく、人差し指で行います。それで
は、4払ってください。
生徒達、4を払う。
スズキ 5は、五珠をおきます。人差し指で、珠を下におろします。おろすことを、置くと言います。そして、6は……そうです。1珠を一つ置くのです。7、8、9、ときて、もう一
度払いましょう。この時、一珠四つを人差し指で払い、続いて五珠を人差し指で払います。下からアッパーです。そして、左側の桁の一珠を一つ置き、これで10の出来上がりです。皆
さん、わかりましたか。
全員 はーい。
スズキ 確認です。1、2、3、……。
以下、台詞のブロックごとにスズキが数を数える。
(10を数え終わるまでに)和田 ねぇ、知ってる?ひろしが学校行く途中の道で、牛乳をこぼしちゃって、はじめて道路で上半身裸になったんだって。
吉川 うそー。
和田 ホント、ホント。あ、でも一応内緒ね、これ。めぐから聞いた話だから。
吉川 うん。
スズキ ごはさんで。
(10を数えおわるまでに)吉川 ねぇ、知ってる?ひろしが今日学校行く途中の道で、なんか牛乳飲んだんだけど、はじめて牛乳こぼしちゃって、上半身裸になっちゃったんだって。
牧野 うそー。
吉川 ホント、ホント。あ、でも一応内緒ね、これ。和田ちゃんから聞いたから。
牧野 うん。
スズキ ごはさんで。
(10を数え終わるまでに)牧野 ねぇ、知ってる?えーと、今日はじめて、ひろしが学、あれ?学校行く途中の道の話なんだけど、今日はじめて牛乳こぼしちゃったんだって。で、上
半身裸になったんだ。はじめて。
本田 うそー。
牧野 ホント、ホント。あ、でも一応内緒ね、これ。吉川さんから聞いたから。
スズキ ごはさんで。
(10を数え終わるまでに)本田 ねぇ、知ってる?えーと、ひろしが今日はじめて学校の行く途中の道で。えーとね、道の話なんだけど、牛乳が美味しかった。はじめて。
日高 は?
本田 あ、牛乳美味しくて、はじめて上半身裸になったんだって。
日高 うそー。
本田 ホント、ホント。あ、でも一応内緒ね、これ。まっきーが言ってたから。
スズキ ごはさんで。
(10を数え終わるまでに)日高 えーと、今日はじめてひろしが上半身裸になって。あ、忘れた。えーと、牛乳飲みながら。
和田 え?
日高 あ、牛乳美味しくて、はじめて上半身裸になったんだって。
和田 ……うそー。
日高 ホント、ホント。あ、でも一応内緒ね、これ。本田が言ってたから。
スズキ ごはさんで。
(10を数え終わるまでに)日高 えーと、今日はじめてひろしが上半身裸になって。あ。忘れた。えーと、牛乳飲みながら。
和田 え?
日高 あ、牛乳美味しくて、はじめて上半身裸になったんだって。
和田 ……うそー。
日高 ホント、ホント。あ、でも一応内緒ね、これ。本田が言ってたから。
スズキ ごはさんで。
(10を数え終わるまでに)和田 え、でもでも、私が、聞いた話だと、裸に牛乳かけたんだって。
日高 なにそれ。
和田 だから、
スズキ ごはさんで、願いましては。
生徒たちが前を向く。
スズキ ごはさんというのは、珠を払ってゼロにすることです。願いましてはというのは、こけから計算をしますので、よろしくお願いしますという意味です。ごはさんで、
()の中のセリフはスズキ。
和田 今日の朝、重岡ひろしがね、(ごはさんで、願いましては、)
日高 学校来る途中で、(1円なり)
本田 突然道端で、(2円なり)
牧野 上半身裸になって、(3円なり)
吉川 牛乳を、(4円なり)
和田 自分の身体にぶっかけて、(5円なり)
吉川 美味しいって言ったんだって。(6円では)
全員 うわー、最低。(21円です。)
和田 んでね、ひろしったら(ごはさんで)
牧野 牛乳のんだら、(願いましては)
本田 寒くなっちゃって、(7円なり)
日高 道端ではじめて、(8円なり)
和田 おしっこ漏らして、(9円なり)
日高 学校来る途中で、(10円なり)
和田 そのおしっこも飲んじゃって、(11円なり)
本田 突然道端で、(12円なり)
牧野 上半身裸に、(13円なり)
和田 おしっこを、(14円なり)
牧野 自分の身体にぶっかけて、(15円なり)
吉川 美味しいって言って、(16円なり)
和田 牛乳とおしっこを一緒に飲んだんだって。(17円では)
全員 うわー、最低。(132円です。)
和田 しかもしかも、ひろしさ(ごはさんで、願いましては)
日高 手先だけはさ、(18円なり)
牧野 器用でさ、(19円なり)
吉川 模型とかさ、(20円なり)
本田 作ってるんだけど、(21円なり)
和田 あいつのお父さんの仕事さ、(22円なり)
日高 木造とかを作ってるらしいんだけど(23円なり)
牧野 よく木目とかさ作ってるらしいんだけど(24円なり)
吉川 よく木造、……木、目をよく作ってるらしいんだけど(25円なり)
本田 よく木阿弥を作ってるらしいんだけど、(26円では)
全員 よくわかんない。
大野 (立ち上がり)ちょっと、みんな、静かにしてよ。
沈黙。
大野 みんな、ちゃんと授業聞いてよ。
和田 聞いてるって。(日高に)ねぇ。
日高 うん。
和田 ほら。
大野 一つ。授業中のおしゃべり禁止。
和田 はーい、わかりました、委員長さん。
大野 ひろし、気にすることないよ。
重岡 ……うん。
【8】小学校の校則
☆大野 小学校でしてはいけないこと。学校の規則。略して校則。
全員 一つ。
大野 授業中のおしゃべり禁止。
全員 一つ。
大野 廊下は走らない。
全員 一つ。
大野 学校に携帯電話は持ち込まない。
全員 一つ。
大野 給食は残さない。
全員 一つ。
大野 先生の給食のスープの中にチョーク入れない。
全員 一つ。
大野 鉛筆かまない。
全員 一つ。
大野 ビー玉、鼻の穴に入れない。
全員 一つ。
大野 コップをくわえない。
全員 一つ。
大野 ヤクルトのふたをかんであけない。
全員 一つ。
大野 飲み会の席で自分の話ばかりしない。
牧野 一人だけゴールインしない。
本田 仕事に私情は持ち込まない。
日高 お店の子の受信メールは残さない。
重岡 最初からディープキスはしない。
吉川 居酒屋に入ったら、最初にとりあえず生ビールを頼む。
細木 期日までにバイトのシフト提出。
スズキ かませ犬にならない。
和田 変なもの、相手の穴にいれない。
大野 授業中のおしゃべり禁止。
全員 一つ。
大野 廊下は走らない。
全員 一つ。
大野 学校に携帯電話は持ち込まない。
全員 一つ。
大野 給食は残さない。
全員 一つ。
大野 先生の給食のスープの中にチョーク入れない。
全員 一つ。
大野 鉛筆かまない。
全員 一つ。
大野 ビー玉、鼻の穴に入れない。
全員 一つ。
大野 コップをくわえない。
全員 一つ。
大野 ヤクルトのふたをかんであけない。
全員 一つ。
大野 授業中のおしゃべり禁止。
大野 廊下は走らない。
大野 学校に携帯電話は持ち込まない。
大野 給食は残さない。
大野 先生の給食のスープの中にチョーク入れない。
大野 鉛筆かまない。
大野 ビー玉、鼻の穴に入れない。
大野 コップをくわえない。
大野 ヤクルトのふたをかんであけない。みんな、三分前だよー。
再び、☆のブロックの台詞。
全員 一つ。命を奪う道路では、飛び出しません。一つ。命を奪う道路では、はしりません。一つ。命を奪う道路では、右、左、右を見て渡ります。
全員で下校。牧野はスーパーに。大野と重岡が一緒に帰って、途中で大野が重岡と別れる。吉川と重岡が途中で会って、二人で家へ。和田は、日高と寄り道。そうしてしばらくすると、
本田以外、地面にしゃがみこむ。顔は伏せる。
【9】あつしの部屋
本田が作文を読む。
凄く汚い部屋。
本田 あつしくん。
返事がない。
本田 しずかですよ。あーつーしーくん。
武田が現れる。
武田 入っていいよ。
本田 おじゃまします。(部屋を見て)うわ……なにこれ。
武田 散らかってるけど、どうぞ。
本田 はい、これ。今日のプリント。と生活日誌。
武田 ありがと。
本田 どういたしまして。
武田 今日、どれくらいいられるの。
本田 学童終わる時間まで。
武田 新しくゲーム買ったんだけどさ。
本田 なになに。
武田 格ゲー。
本田 えー。
武田 違うんだよ。
本田 違う?
武田 格闘ゲームなんだけど、違うの。
本田 私、あつしくんとどんだけストリートファイターやったと思ってんの。
武田 今度はしずかも好きそうなやつだから。
本田 え、なに、可愛いの?
武田 うん。
本田 え?ホント?
武田 うん。ケーキとか、クッキーとかがキャラクターで。
本田 うそ。
武田 ケーキがパンチすると、生クリームが相手に飛んでくの。
本田 波動拳?
武田 クッキーがスクリューパイルドライバーできるんだけど、
本田 ザンギエフ?
武田 クッキーのライフが1になるの。クッキーもろいから。
本田 諸刃の剣?
武田 それ、ドラクエ。
本田 ……そんなんだからダメなの。
武田 え?
本田 そんなんだから、いつまで経ってもよわっちいの。あつしくんは。
武田 俺、強いよ。全キャラクターの必殺技全部出せるし。
本田 違う。
武田 バグ技も出せるよ。
本田 じゃあ、出せんの。
武田 え?
本田 今。必殺技。
武田 えーと……
本田 出してよ。強いんでしょ。
武田 出せるよ。
武田、必殺技を出す。本田、無反応。
本田 全然、痛くない。
武田 ごめん、出せませんでした。
本田 出せるよ。
武田 えぇ?
本田 あつしくんが願えば、必殺技くらい出せる。
武田 えぇー。なんなの。
本田 ……和田菜美子、前よりひどくなってる。
武田 ………。
本田 今度は、ひろしがターゲトにされてる。
武田 ……知らない。
本田 先生も全然見て見ぬふりだし。
武田 ………。
本田 めぐみのこと覚えてる?
武田 日高めぐみ?
本田 うん。あつし君の前にいじめられてた子。
武田 どうしたの。
本田 今じゃ、菜美子の手下になってる。
武田 あ、今日はさ、どんな授業やったの。
本田 そろばん。
武田 そろばんか。
本田 新しく来た担任さ、外人みたいな顔してるんだけど、
武田 外人?アメリカ。
本田 わかんない。今日、そろばん得意げに教えてるとき、ちょっとむかついた。
武田 ねぇ、教えてよ、そろばん。
本田 え?
武田 勉強、教えてよ。俺、やばいんだ。
本田 私もだよー。
武田 副委員長でしょ。
本田 関係ない。
武田 ありがとうプリント。毎日届けてくれて。
本田 なに言ってんの。いいよ。
武田 ありがとう。
本田 今日は待って。そろばん学校に忘れたから。
武田 あ、そうなんだ。
本田 私、そろそろ帰るね。
武田 あ、もう?
本田 用事思い出しちゃった。それじゃあ。
本田 じゃあ。ばいばい。
武田 うん、ばいばい。
本田 ばいばーい。
武田 ばいばーい。
本田、武田家から出る。
【10】帰り道
本田が一人、マスを歩いている。
本田 (座っている人に八つ当たりしながら)どうしよう。なんでだよ。なんだよ、これ。ぐちゃぐちゃだよ。どうしよー。ほんとにどうしよう。じゃなくて、そろばんなんて、全然わ
かんないよ。最初はあんなへなちょこ嫌いだったのに。え、私、あつしくんのこと……え、そんなことない。えーでも。じゃなくて、そろばん。……そうだ。頑張ればいいんだ。勉強す
ればいいんだ。あつしくんのために何かをする気持ちを、勉強に使えばいいんだ。え、ていうことは…私、あつしくんのこと。私、あつし君のこと好きなんだ。あーそっか、そういうこ
となんだ。どうしよう。好きだよ、あつしくんのこと私、大好きだよ。なんで好きなんだろう。弱いし、引きこもりだし、不登校だし、へなへなだし。でも、好きなんだよ。席替えの時
隣になって、毎日ドキドキしたんだ。消しゴム拾ってくれた時、恥ずかしかったんだ。先生に問題をあてられて、私が全然分かんない時にちっちゃい声で答えを教えてくれて、私、嬉し
かったんだ。そうなんだ。
本田、作文を読み始める。
日高が現れる。
日高 あんた、なにしてんの。
本田 めぐみ。
日高 ……大丈夫。
本田 べつに。ただ、羽虫が目の前に来て、おっぱらっただけだよ。
日高 ふっ。
本田 めぐみこそ、何してんの。
日高 寄り道してんの。
本田 かっこつけんなよ。
日高 ……菜美子といるよ。
本田 ………。
日高 いま、あっちのゲーセンのトイレに行ってる。
本田 ねぇ、いつまでさ、あいつの手下やってんの。
日高 手下じゃないよ。友達だよ。
本田 友達?
日高 もう、菜美子くるから。あんたと話してるとこ見られたくない。
本田 変わったね、めぐみ。
日高 いいから、もう向こう行って。
本田 ねぇ、
和田 なにしてんの。
日高 ……なみちゃん。
いつの間にか菜美子がいる。
和田 なにしてんの、めぐ。
日高 なみちゃん。あの。これは。
本田 めぐみは関係ないよ。偶然会っただけ。
和田 ふーん。
本田 なに。
和田 つうやぶするんだ。
本田 え?
和田 副委員長さんが、つうやぶしてもいいんだ。
本田 は?
和田 通学路やぶっていいんだ。
本田 違うよ。
和田 あんたの家、こっちじゃないでしょ。
本田 ……武田くんの家、行ってたの。
和田 武田の、あつし?
本田 文句ある?
和田 ねぇ、元気だった?あつし。
本田 ………。
和田 あいついなくなって寂しいって、伝えといてよ。
本田 ふざけんな。
和田 副委員長さんが暴力していいんだ?
本田 ばかやろう。
本田が和田につっこんでいく。
和田 おい、めぐみ、なにしてんだ。こいつやれ。
日高 でも……。
和田 いいから、やれ。
和田の命令で、日高が本田を突き飛ばす。
【11】スーパーのタイムセール
スズキ (拡声器)さぁ、18時になりました。本日はたまご一パック、なんと99円。お一人様一パックまでとなります。たまご一パック、なんと99円。はい、そこ飛び出さない。
走らない。左右の人を確認する。はい、そこ、危ないでしょ!だから危ないの!ババアどもこれじゃ渋滞だ!ババア渋滞ー。
牧野がそこに割り込む。次々といろんな人も喧嘩を始める。
牧野が勝利して、他の者はその場に倒れる。
牧野勝利のポーズ。
作文を読む牧野。
【12】重岡家
牧野 ただいまー。
吉川 おかえり。
牧野 あれ、お父さんは?
吉川 寝てるよ。
牧野 また。
吉川 ぐうたら猫みたいに。
牧野 今日も駄目だったんだ。仕事。
吉川 お母さん、どうしたの。
牧野 ん?
吉川 凄い汗。
牧野 あぁ。ちょっとね。
吉川 ねぇ、お母さん、今日の晩御飯なに。
牧野 卵を使った、何か。
吉川 えー、なんだろう。
牧野 そういえば進路相談、来週でしょ。
吉川 うん。
牧野 あれって、スーツで行った方がいいの。
吉川 なんでもいいんじゃない。
牧野 うーん。でもその日仕事だしなぁ。
吉川 パートの制服で行っちゃえば。
牧野 やだ。
吉川 うちの担任、おじいちゃんだから。
牧野 お父さんに行ってもらおうかな。
吉川 えー。
牧野 えーって。
吉川 お母さん来てよ。
牧野 行くけど。あれ、ひーくんは。
吉川 お父さんの建てた家見てる。
牧野 また。
吉川 最近は毎日学校帰りに行ってるみたいだけど。
牧野 風邪引いちゃうじゃん。
吉川 夢中になると、周り見えなくなるから。あいつ。
牧野 そうだけど。
吉川、コタツでぬくぬくしている。
牧野 どうすんの。
吉川 え。
牧野 進路。
吉川 ぼちぼちだよ。
牧野 小説書きたいの。
吉川 うん。
牧野 それは、大学に行ったらできないことなの。
吉川 できる、できないじゃなくてさ。
牧野 なに。
吉川 危ないじゃん。将来。
牧野 だから、行くの。
吉川 違う。うちの将来が危ないの。
牧野 え。
吉川 大学なんて行ったら、うち潰れちゃうよ。
牧野 潰れない。
吉川 今でも、安定してないじゃん、うち。私、分かってるんだから。
牧野 うちは大丈夫。
吉川 うそだー。
牧野 行きなさいって、大学。
吉川 うーん。
牧野 あやみは一人でも社会で頑張れるようにするの。もしもの時とか。
吉川 別に大学なんていいよ。
牧野 来年、高校3年なんだよ。
吉川 わかってるよ。
牧野 大学行くの。
吉川 矛盾してるよ。私が大学行ったら、うちは、潰れる。
牧野 潰れません。お父さんの建てた建物になんていうの。
吉川 そのお父さんがしっかりしてないじゃん。
牧野 それは、そうだけど。
吉川 私、小説ね、部活だけで終わらせたくないの。
牧野 ………。
吉川 ねぇ、今日のご飯なに。
牧野 ……卵焼き。
吉川 え。
牧野 しかもトマト入り。
吉川 なにそれ。
牧野 トマト入れると、さっぱりして美味しくなるの。
吉川 それ、朝ご飯じゃん。
牧野 いいでしょ。明日のあやみのお弁当にもつかえるし。
スズキがやってくる。
細木をかかえてる。
スズキ おう。おかえり、お母さん。
吉川、その場を去る。
スズキ どうした、あいつ。
牧野 ううん。
スズキ ひろしは?
牧野 いつものとこ。
全員で、重岡を上にあげる。
スズキ またか。
牧野 あの子も将来、お父さんみたいな大工になるのかな。
スズキ え、そうなの。
牧野 手先だけは器用じゃない、あの子。
スズキ そっか。
牧野 そうなの。
スズキ 迎え行くよ。もう外真っ暗だし。
牧野 お願いします。あっ、あったかくしてね。雪、降りそうって天気予報で言ってた。
スズキ おう。けど、あいつ俺がどんな仕事してるのかわかってないよ、多分。ただ、これが俺の作ったものなんだなっていうこと教えられて、すごいすごいって言ってるだけ。行って
きます。じゃあな、かよー。
細木 (鳴く)
牧野 行ってらっしゃい。
【13】父親の家
高台にある、町が一望できる場所。
重岡がいる。
スズキ ひろしー。
重岡 あ、お父さん。
スズキ もう、帰るぞ。
重岡 もうちょっと。
スズキ なにやってんの。
重岡 宿題。
スズキ そんなの後にしなさい。
重岡 もうちょっとだから。
スズキ お父さんの手かりなくても、宿題できんのか。
重岡 できるよ。
スズキ ほんとか。
重岡 今、行くよ。
スズキ なんの宿題。
重岡 冬休みの作文。
スズキ ひろし。まだ冬休み前だぞ。
重岡 時間かかるから。僕。
スズキ だから、先にやるのか。
重岡 そうだよ。
スズキ お前、凄いな。いいから、帰るぞ。
重岡 まって。
スズキ またない。
重岡 えー。
スズキ 風邪引くよ。
重岡 うるさい、メガネ。
スズキ こらっ。お前もだろ。
重岡、メガネをはずす。
重岡 あーあ。
スズキ どうした。
重岡 見えなくなっちゃったじゃん。
スズキ はぁ?
重岡 お父さんが建てた家。作文で家のこと書くつもりだったのに。
スズキ お前が自分でメガネはずしたからだろ。
重岡 バカ。
スズキ かけろよ。
重岡 やだ。
スズキ 高いところでメガネはずしたら、危ないぞ。
重岡、立ち上がる。
スズキ おい。
重岡 大丈夫だよー。僕、高いところ、平気だもん。
スズキ いいから、おりろ。
重岡 ねぇ、お父さん、どうやったら、大工になれる。
スズキ うーん。
重岡 なんで、お父さん、家、たてないの。
スズキ お客さんがいないと駄目なんだよ。
重岡 お客さん。
スズキ あぁ。職人でどっかの会社に入ってても、現実は下請け業者だからな。
重岡 へー。
スズキ 誰かが、お願い、作ってくださいって言えば、な。
重岡、下に下りる。
スズキ なりたいのか。大工。
重岡 わかんないけど。
スズキ 頑張れば、なれる。
重岡 え、ほんと。どうやって頑張るの。
スズキ 頑張って、考える。
重岡 どうやって頑張るの。
スズキ 頑張って、頑張る。
重岡 うん。わかった。僕、頑張る。
スズキ あ。雪。
重岡 え?
スズキ 雪だ。見てみろ、ひろし。
重岡 わー。
スズキ 帰るぞ。
スズキ、重岡と手を繋ぐ。
重岡 ねぇ、なんで雪って白いの。
スズキ 考えろ。
重岡 えー。
スズキ (二人、歩く)今日、一緒に風呂入るか。
重岡 うん。
スズキ 学校どうだ。
重岡 ………。
スズキ 楽しいか。
重岡 うん。
スズキ そっか。なんかあったらいつでも言えよ。
重岡 大丈夫。俺、強いし。
スズキ 「俺」か。
重岡 なに。
スズキ 別に。大人になったなぁって。
重岡 なんだよ。
スズキ なんでもない。
重岡 ねぇねぇ。なんでお父さんのチンチンってあんな色なの。
スズキ え。それは……。大人になればわかるよ。
重岡 えー。どうやったら、大人になれんの。
スズキ 頑張ればなれる。
重岡 ふーん。
スズキ なんだ。
重岡 大人になったら、僕が言うよ。
スズキ なにが。
重岡 今は、お金ないから、無理だけど。大人になったら家、作って下さいって。僕、お父さんに言うよ。
スズキ、重岡の頭を叩く。
重岡 なんだよ、もう。
スズキ トンカチ。
重岡 えぇ。
スズキ トンカチパンチ。
重岡 いたい。
じゃれ合う重岡と、鈴木。
重岡 ノコギリチョップ。
【14】重岡家
☆重岡・スズキ ただいま
細木 なり
吉川・牧野 おかえり
細木 なり
全員 いただきます
細木 にゃーり
全員 ごちそうさま
細木 にゃー
重岡 おやすみなさい(寝る)
全員 おやすみ
吉川 おやすみなさい(寝る)
全員 おやすみ
牧野 おやすみなさい(寝る)
スズキ おやすみ
スズキ おやすみなさい(寝る)
細木 にゃー
細木 にゃー
全員 ごはさんで、
全員 願いましては
牧野 おはよう
吉川 おはよう
スズキ おはよう
細木 にゃー
全員 いただきます
重岡 おはよう
吉川 ごちそうさまでした
重岡 いただきます
吉川 行ってきます
牧野 いってらっしゃい
重岡 ごちそうさまでした
スズキ ごちそうさまでした
重岡 いってきます
牧野 いってらっしゃい
重岡 いってきます
スズキ 気をつけてな
重岡 うん
スズキ いってらっしゃい
重岡 いってきます
牧野 いってきます
スズキ いってらっしゃい
牧野 かよちゃん、よろしく
細木 にゃー
牧野 あと、洗濯とか
スズキ うん
牧野 食器とか
重岡 あぁ
牧野 行ってきます
スズキ いってらっしゃい
吉川 ただいま
スズキ …おかえり
牧野 ただいま
スズキ・吉川 おかえり
☆に飛んで、5回繰り返す。
そののちに、
スズキ お母さん
牧野 なに。
スズキ 仕事の電話
牧野 え?
スズキ きたよ
吉川・牧野 ほんと
スズキ ほんと
重岡 ただいま
【15】電話の回線
重岡と大野が電話で話をしてる。
大野→吉川→細木→牧野→スズキ→重岡の順で、手を握っている。
重岡 はい。重岡です。
大野 あ、夜遅くにすみません。重岡ひろし君と同じクラスの大野かおりですけど、ひろしくんいらっしゃいますか。
重岡 はい。僕です。
大野 あ、ひろし。
重岡 かおりん、どうしたの。
大野 えーとね、明日さ、学校終わったら、時間ある?
重岡 うん。
大野 明日雪つもるんだって。
重岡 え。
大野 でね、
重岡 もしかして学校休みになるの?
大野 違うよ。人の話聞いてよ。
重岡 なんだ、連絡網かと思ったじゃん。
大野 違うの。学校終わったらさ、一緒に雪だるま作らない?
重岡 いいけど。
大野 じゃあ、明日、終わったら、雪だるまね。
重岡 うん。それだけ?
大野 うん。
重岡 明日言えばいいのに。
大野 だってさ、最近いっつもすぐ帰っちゃうし。ひろし。
重岡 うん。
音が一瞬、大きくなる。(重岡 でも、雪、強くなったね。明日、積もるね。これなら)
大野 え?
重岡 雪、凄い。今、見える。
大野 あぁ。うん。ごめん、雪のせいで電話聞こえにくいかも。
重岡 そうなんだ。
大野 そうそう。
重岡 かおりんのブス。バカかおりん。いえーい。
大野 え、なんでブスなの。
重岡 あ、聞こえた。
大野 聞こえるよ。
音が一瞬、大きくなる。(大野 まだ、電話大丈夫?)
重岡 え?
大野 また電話が。電話、怒られない?
重岡 うん。大丈夫。
大野 よかった。あのさ、全然どーでもいい、
音が一瞬、大きくなる。(大野 話なんだけど、私、今日)
重岡 え、なに。聞こえない。
大野 私、今日、おかあさんといっしょを見てたんだけど、
重岡 え、なに。
音が大きくなる中、回線の会話。
大野 私、今日、おかあさんといっしょを見てたんだけど、えーと、じゃじゃまる、ぴっころ、ぽーろりって覚えてる?
吉川 私、今日、おかあさんといっしょを見てたんだけど、えーと、じゃじゃまる、ぴっころ、ぽーろりって覚えてる?
細木 私、今日、おかあさんといっしょを見てたんだけど、じゃじゃまる、ぴっころ、ぽーろりって覚えてる?
牧野 私、今日、おかあさんといっしょを見てたんだけど、じゃじゃまる、ぴっころ、ぽろりってよく覚えてる?
スズキ 私、今日、おかあさんといっしょをよく見てたんだけど、じゃじゃまる、歌丸、ぴっころを覚えてる?
重岡 歌丸?意味わかんない。
大野 え、なに。聞こえない。
重岡 あーの、うー。歌丸さんは好きです。
大野 え、なに。聞こえない。
重岡 あーの、うん、覚えてるよ。歌丸さんは好きだよ。あのー、じゃじゃまるとかはなんとなくしか覚えてないんだけど。ぴっころって、緑で触手生えてるやつだっけ?
スズキ あーの、うん、覚えてるよ。歌丸さんは好きだよ。じゃじゃまるはなんとなくしか覚えてない。ぴっころって、あの、触手生えてるやつだっけ?
牧野 あの、うん、覚えてるよ。歌丸さんは好きだよ。じゃじゃまるはなんとなくしか覚えてないよ。ぴっころって、あの、毛が生えてるやつだっけ?
細木 うん、覚えてるよ。歌丸さんは好きだよ。ぴっころって、毛が生えてるやつだっけ?
吉川 うん、覚えてるよ。歌丸さんは好きだよ。ぴっころって、あの、毛生えてるやつだっけ?
大野 え。
重岡 ねー、なんで歌丸。
大野 歌丸もぴっころも、どっちも毛生えてないよ。
重岡 え、なに。聞こえない。
大野 歌丸もぴっころも、どっちも生えてないよ。そういえば、今日、本屋に行ったんだけど、立ち読みしてたらおじさんが注意してきて、びっくりしちゃった。
吉川 歌丸もぴっころも、どっちも生えてないよ。そういえば、今日、本屋に行って立ち読みしてたら、おじさんが注意してきて、びっくりしちゃった。
細木 歌丸もぴっころも、どっちも生えてないよ。えーと、おじさんは。違う。え、私なに言ってんだ。よくわかんない。本屋で立ち読みして、えーと、うー、うー、おじさんがむかつ
く。
牧野 歌丸もぴっころも、どっちも生えてないよ。今日、おじいちゃんが、ちがう、間違えました、なしで。あれ?ちょっとまって。今日、本屋で立ち読みして、えーと、うー、うー、
おじいちゃんがむかつく。
スズキ 歌丸もぴっころも、どっちも生えてないよ。今日、本屋で立ち読みして、えーと、うー、うー、おじいちゃんがむかつく。
重岡 え。
大野 ひろしー、全然わかんないよ。
スズキ・重岡 おじいちゃんムカついちゃダメだよ、かおりん。えーと、えー、
スズキ、重岡と手が離れる。
スズキ、上に上っていく。
家族、スズキを見る。
重岡 あ。切れちゃった。
大野 明日、積もるといいな。
【16】放課後のグラウンド
生徒達、イスをもってやってくる。
和田 めぐ、あいつらなんか楽しそうじゃない?
日高 え?
和田 あそこ。馬鹿みたいに遊んじゃってチョーうけるんだけど。
日高 う、うん。
和田 私たちもやろうよ。雪合戦。雪の中、何いれる?
日高 なみちゃん、そんなにいい?雪合戦。
和田 え、いいでしょ、別に。
日高 だって、さ、うん。
和田 嫌なの、めぐ。
日高 ううん。行こう。
和田 楽しい雪合戦。
和田 なにしてんの
大野 なんでもないよ
和田 私もまぜてよ
大野 え?
和田 いいでしょ。
和田が雪を持つ。日高も持つ。
和田 楽しい雪合戦!
和田と日高が大野と重岡に投げる。
細木が現れる。
細木が和田に雪をなげる。
重岡と鈴木の会話の中、同時進行で雪合戦。
大野が和田に雪をなげる。和田、倒れる。
和田 なにしてんだ、めぐ。助けろ
日高 もういやだ
日高も和田に雪をなげる。和田が逃げる。日高が怖くなって和田の後を追う。
重岡 ねぇ、みんなで作ろうよ。雪だるま。
スズキ お父さんに負けないくらいのでっかいやつな。
重岡 みんなの好きなもの組合せて。理想の雪だるまを作るんだ。
スズキ 人気者になるぞー。
重岡 例えば、笑った時にちゃんと笑顔ができる雪だるまとか。
スズキ ひろし、時間が。
重岡 例えば、いつもほんわかだけど、しっかり怒ってくれる雪だるまとか。
スズキ お父さんには時間がないんだ。
重岡 お父さん、見ててね。
スズキ・重岡 せーの。
牧野 目が凄く大きい
全員 なり。
本田 鼻がすらっと高い
全員 なり。
武田 強靭な肉体
全員 なり。
大野 あったかい心
全員 なり。
吉川 小さい顔
全員 なり。
細木 長い手足
全員 なり。
重岡 しぶめな声
全員 でーは。
全員 ……。
牧野 ああいうふうに
全員 なり たい。
本田 こういうふうに
全員 なり たい。
武田 そういうふうに
全員 なり たい。
大野 どういうふうに
全員 なり たい。
全員 …………。
吉川 ずっと子供で
全員 いーたい。
細木 ずっと子供で
全員 いーたい。
重岡 ずっとこのままで
全員 いーたい。
牧野 ずっとこのままで
全員 いーたい。
本田 早く大人に、
全員 なり たい。
武田 ずっとこのままで
全員 いーたい。
大野 早く大人に、
全員 なり たい。
吉川 ずっとこのままで
全員 いーたい。
細木 早く大人に、
全員 なり たい。
牧野 シャベルの音。
全員 ざくざく。
本田 女の子の泣く声。
全員 うわーん。
武田 殴り合う音。
全員 ドゥクシ。
大野 わき水の音。
全員 チョロチョロ。
吉川 こたつでごろごろする音。
全員 ごろごろ。
細木 スキーで滑る音。
全員 スイーっ。
スズキ 俺が落ちる音。
全員 ヒュ―。
スズキ 俺が落ちた音。
全員 うー、ドスン。
重岡 わかんないよ。
橋本 大変だ、ひろし。お父さんが、仕事中に、家から落ちて、死んだ!
変な格好をしたスズキが、上から登場。
付け鼻や付けメガネ、帽子、手袋、ピアスなどなど、色々装備している。
そして、そのスズキを橋本が肩車している。
重岡、大野、細木以外、びっくりして去る。
【17】雪だるま
細木、大野、重岡の三人がマスにいる。
スズキ(+橋本)はストップモーション。
重岡・大野 完成!
大野 うわー、すっごい大きいのできたね。
重岡 うん。
大野 ちゃんと、鼻もあるし、口もあるし、目もあるし。それに、
大野・重岡 でかいし。
大野 私たちだけで作ったんだよね、これ。
重岡 なんて名前つける。
大野 え。
重岡 こいつに。
大野 うーん。
重岡 ユッキ―。
大野 ゆきぴょん。
重岡 アイスまんじゅう。
大野 雪見大福。
重岡 ユキオ。
大野 ユキオ?
重岡 雪の男と書いて、ユキオ。
大野 男なの、こいつ。
重岡 一応、ちんちん的なものはつけたけど。
大野 えぇ、うそ。私、おっぱいつけたよ。
重岡 僕が、それとったから。
大野 なにすんの。
重岡 だってさ。
大野 折角、目が大きくて、可愛いのに。
スズキの○○が一つ落ちる。
重岡 あぁ。
大野 ○○が取れた。
スズキの○○をつける。
大野 まぁ、いいよ、ユキオで。
重岡 それか、「雪を」使って、作ったからユキヲ。
大野 ミツヲみたいな。
重岡 うん。けど、ユキオで。
大野 うん。
重岡 ユキオ、かっこいいなー、お前。
スズキの○○が一つ落ちる。
重岡 あぁ。
大野 ○○が取れた。
スズキの○○をつける。
重岡 ユキオ、案外もろいんだね。
大野 おかしいなー。折角、ちゃんと色んなもの集めて、
重岡・大野 かっこよくしたのに。/可愛くしたのに。
スズキを肩車していた橋本が崩れる。
重岡 あぁ!
大野 ユキオ!
重岡 ど、どうしよう。
大野 ……とけてるの、これ。
重岡 うん。
大野 なんで。
重岡 わかんないよ。
細木 ユキオなんて全然、かっこよくないし。
崩れていた橋本が止まる。
大野 え?
細木 ユキオなんて、でくのぼうだよ。
橋本が上に上がる。
重岡 あ。
大野 雪が……固まっていく。
細木 ユキオの鼻なんて、魔女みたいで気持ち悪いんだよ。
橋本が完全に上に鈴木を上げる。
大野 元に戻った。
重岡 スゲ―。
細木 大野さん、こいつの良いとこ言ってみて。
大野 え。
細木 いいから。
大野 ……耳たぶがポヨポヨして可愛い。
鈴木の○○が一つ落ちる。
間。
細木 こいつ、相当ドМな雪だるまだわ。
大野 どういうこと。
細木 だから、褒められると、身体が溶けて、けなされると身体が凍っていく。
大野 えー。なにそれ。
細木 つまり……死ね、ユキオ。
鈴木の○○を、橋本が拾う。
間。
細木 こういうこと。暖かい言葉をかけると、暖かくなるから、冷たい言葉をかけなきゃいけないってこと。
大野 なんでそんな。
細木 わかんないよ。
大野 てか、細木さん……?
細木 なに。
大野 うちのクラスの細木香代子さんだよね、あなた。
細木 え、わかんない。
大野 ちゃんと話せるんだ。
細木 話せるよ。
大野 いや、はじめて聞いたかも……ちゃんと話してるとこ。
大野、スズキを見る。
大野 なんか、喋りそうだね、これ。
重岡 うん。
大野 細木さんが急に話したみたいに、もしかしてユキオも……。
細木 ないない。
スズキ やあ。
全員、沈黙。
スズキ どうも、ユキオです。
全員、驚く。
大野 (叫ぶ)
細木 落ち着いて。
重岡 ユキオ。
スズキ 君は……ひろし、くん?
重岡 うん。ひろしでいいよ。
スズキ ひろし。
重岡 ホントに、ユキオ?
スズキ うん。
重岡 ……スゲ―。
スズキ 君達が作ったんだよ。
重岡 え?
スズキ 君達の沢山の思いが、僕をこんなに大きく立派なものにしたんだ。
スズキの○○が一つ落ちる。
スズキ あ、いけね。
大野 こわいこわいこわい。
スズキ 何もしないよ。
スズキが近づく。(橋本が動く)
大野 (叫ぶ)
細木 自分で自分のことほめても、とけるんだ。
スズキ そうだよ。
細木 ………。
重岡 ユキオ。
スズキ なに。
重岡 お前、どっかで見たことある。
スズキ え?
重岡 誰かに似てる。
スズキ そう。
重岡 笑った時の顔とか、あったかくなる。
スズキの○○が一つ落ちる。
スズキ あー、もう。ほめないで。
重岡 あ、ごめん。
スズキ、落ちたものを拾う。
細木 これ、どうする。
重岡 ………。
細木 これ、他の人に見られたら、やばくない。
大野 お母さんに言おうよ。
重岡 ダメだよ。
大野 え?
重岡 信じないよ、どうせ。ユキオが変なとこつれていかれちゃう。
大野 でも……。
細木 溶かすとか。
スズキ えっ。
重岡 嫌だ。
細木 じゃあ、どうすんの。
重岡 僕が面倒みるよ。
大野 ひろし。
細木 重岡くん、無理。
重岡 なんで。
細木 小学校のグラウンドに置いても、誰かに気付かれるし、ましてや家になんか置けない。
重岡 こうすればいい。
細木 なに。
重岡 ユキオ、大好き。
橋本が崩れる。
重岡 かっこいい。男前。かっこいい。ちょー、すごい。
橋本がスズキを肩車するのやめ、その場を去る。
重岡 ほら。これで、小さくなった。
スズキ ありがとう。
細木 ダメだよ。
重岡 なんで。
細木 雪だるまが動いてる姿なんて見られたら、やばいよ。
重岡 ………。
細木 やっぱ溶かそう。
重岡 だめ。
細木 じゃあ、どうすんの。
重岡 ………。
大野 でも、学校の心配はないよね。
細木 大野さん。
大野 もうすぐ冬休みだし、これぐらいの大きさなら、目立たないし。先生達もさ、私達が作った雪だるまをわざわざ壊さないよ。
細木 そうだけど……。
大野、スズキを見る。
大野 さっきはびっくりしちゃったけど、ユキオ、叫んでごめんね。
スズキ ううん。
大野 ユキオ、かおりんって呼んでいいよ。
スズキ かおりん。
大野 うん。私、クラスの委員長やってるの。
スズキ へー。
大野 ちゃんとクラスのみんなのこと、見てて、勉強もしっかりしなきゃいけないの。
スズキ お疲れ様です。
大野 だから、ユキオも私たちのクラスメートになって。
スズキ いいよ。
大野 細木さん、転校生は、面倒見なきゃいけないでしょ。
細木 ありえないよ。
大野 でも、ありえるんだよ。凄いよ、こんなこと。
スズキ (身体を動かす)
細木 おかしいよ。変だよ、こいつ。
橋本が現れて、スズキを肩車する。
細木 あー、違う。今のは、罵倒じゃなう。
重岡 ユキオ、かっこいい。
橋本がスズキを肩車するの止める。その場を去る。
大野 お願い。細木さんもとかすなんて言わないで。協力して。
細木 えー。だって、私、冬休みに……。
大野 旅行とか行くの。
細木 しないよ、暇だよ。
大野 じゃあ、いいでしょー、お願い。
細木 ……わかった。
大野 え。
細木 だって、重岡くん、ユキオにあったかい言葉使っちゃうから。
重岡 ………。
細木 私が、重岡くんの、見張り役。
大野 やったじゃん、ひろし。
重岡 えー、嬉しいなー。
細木 けど、やると決まったからには、びしびし見張ってくから。
大野 お願いします。
細木 ひろしくん。
重岡 あ、はい。
細木 ためしに、ユキオを罵倒してみて。
重岡 え。
細木 いいから。
重岡 えーと……目が、大きくなくて、凄い。
スズキの○○が一つ落ちる。
細木 違う。もう一回。
重岡 ユキオ、嫌い、かもしれない。多分。
細木 へたくそ。
重岡 うー、ユキオ、かっこいい。
橋本が現れて、スズキを肩車する。
細木 だから、違う。特訓だ、重岡くん。
重岡 えぇ。
細木 私が、重岡くんを成長させる。
全員 バーカ! バーカ!
バーカ! バカ バーカ! バーカ!
メガネ、メガネ、メガネ、メガネ
でっぱ、でっぱ、でっぱ、でっぱ
メガネ、でっぱ、メガネ、でっぱ
おたんこなす、おたんこなす
消えろ、消えろ、うせろ、うせろ
マザコン、マザコン、ロリコン、ロリコン、バーカ、バーカ、カーバ、カーバ
短足、短足、くさい、くさい
カス、カス、ドロ、ドロ
うんこ、うんこ、死ね、死ね
バイキン、バイキン、くせ毛、くせ毛、ハゲ、ハゲ、チビ、チビ
付き合いたくない、え?、付き合いたくない、付き合いたくない
よくわかんない、重岡くん!、よくわかんない、重岡くん!
バカ、バカ、バカ、バカ
【18】重岡家
部屋の中には、沢山のダンボール。
部屋には牧野がいる。
牧野 誰かー。手伝って。あやみー。ひーくん。
重岡が現れる。
牧野 あ、ひーくん。ちょうど良かった。
重岡 なんだよ。
牧野 これ、運ぶの手伝って。
重岡 いま、忙しいから。
重岡、外に出て行こうとする。
牧野 少しだけでいいから。手伝って。お母さん一人なんだから。
重岡 お姉ちゃんは。
牧野 部活。
重岡 なんで俺だけ。
牧野 ひーくん。お願い。
重岡 なにすんのこれ。
牧野 お父さんの。
重岡 なんで。
牧野 まとめるの。工具とか、いろいろ。
重岡 ……なんで。
牧野 なんでじゃないでしょ。
重岡、外に出て行こうとする。
牧野 どこ行くの。
重岡 うるさいな。
牧野 うるさいじゃないでしょ。
重岡 うるさい。
牧野 また、学校。
重岡 なんだよ。
牧野 かおりちゃんと。
重岡 そうだけど。
牧野 冬休みに入ってから毎日ね。
重岡、家の外に出る。
と、細木が現れる。
細木 (鳴く)
重岡 なに。
細木 (鳴く)
重岡 うるさい。
重岡、細木を蹴る。
細木、鳴く。
牧野 ひろし!
重岡、外に出る。
細木、鳴く。
【19】武田家
日高が作文を読む。
本田、武田が現れる。
日高 あつしくん。しずかいる?
本田 めぐみだ。
日高 ごめんくださーい。
武田 あけないで。
本田 なんで。
武田 凄い殺気……。
日高 あつし!
武田 あいつも、菜美子の手下だろ。
本田 けど。
日高 ねぇ、しずか。いるんでしょ。お願い。
本田 菜美子はいないみたいだし。いいでしょ。
武田 勝手にしていいよ。
本田 ありがとう。(日高に)はーい。
本田が扉を開ける。
日高 あ、やっぱりここにいた。
本田 どうしたの。
日高 菜美子が。
本田 なに、落ち着いて。
日高 私、菜美子に言っちゃったの。
本田 なにを。
日高 もう、あんたのいいなりになりたくないって。
本田 え、やったじゃん。
日高 でも、そしたら菜美子が怒って。
本田 え。
日高 小学校のグラウンドに向かった。
本田 気にしなくていいじゃん、別に。
日高 違うの。
本田 え?
日高 今のあいつ、何するかわかんない。
本田 どういうこと。
日高 小学校のグラウンドに行くときに、ぼそっとあいつが話した言葉が聞こえたんだ。
本田 なに。
日高 ……誰か、いるかな。って。
本田 いいじゃん、気にしなくて。
日高 でも。
本田 めぐみは、和田から離れたいの、離れたくないの。どっちなの。
日高 ……言いなりにはなりたくない。
本田 答えになってない。
日高 あいつ、このままじゃ誰か殺しちゃうよ。
本田 ないない。
日高 私、やっぱり菜美子の様子見てくる。
本田 めぐみ!
日高、去る。
本田 あつしくん。
武田 いいよ、関係ないよ。
本田 ……あるよ。
武田 え。
本田 みんな、今まで菜美子にやられてた。やりかえさないと。
武田 無理だよ。
本田 あつしくんなら、できるよ。
武田 できないよ。
本田 出せるよ、必殺技。
武田 じゃあ、しずかがだしてみろよ。
本田 ………。
武田 ………。
本田 出せるよ。必殺技。
武田 え?
本田 あつしくん、私ね、あつしくんのこと好き。大好き。ホントに好き。
武田 ………。
本田、その場を去る。
【20】小学校のグラウンド
色々な映像が流れる。
グラウンドには大量の雪が積もっている。
重岡、大野、細木、スズキがいる。
重岡 なーなー、折角の冬休みなんだし、もっと面白いことしない。
大野 面白いこと。
重岡 うん。
大野 雪合戦。
重岡 やったよ。
細木 雪すべり。
重岡 やったよ。
スズキ 雪だるま作り。
重岡 え。もう一人作るの。
細木 だめだめだめ。
スズキ ………。
重岡 面白いことないわけー。ねぇ。(暴れる)
大野 ちょっとやめてよ、ひろし。
重岡 女のくせにぴーちくぱーちく騒がしいんだよ。
大野 えぇー。
重岡 かおりんのブス。
大野 ひどい。
重岡 バカかおりん。
大野 うー。
重岡 いえーい。
スズキ ひろし、もうやめなよ。
鈴木が、重岡を止めようとする。
重岡 黙れ、くそ野郎。
鈴木の身体が硬直する。
ちょっと鈴木が気持ちがる。
重岡 ほらー、ユキオ。お前にカキ氷シロップかけてやろうか。
鈴木 それはちょっと……。
重岡 ニヤニヤするな。このへんたい野郎。
鈴木の身体が硬直する。
ちょっと鈴木が気持ちがる。
鈴木 細木さん。
細木 なに。
鈴木 これ、ちょっと固まりすぎてる。
細木 えぇ。
大野 予想以上に、ひろし、成長しちゃったじゃん。
細木 えー、と、どうしよう。
大野 細木さん。
重岡 弱虫。冷たい。メガネ。
鈴木 (気持ちがりならがも)たすけて。
細木 ……ユキオ、好き。
鈴木の、身体が自由になる。
細木、照れる。
大野 なんで、ちょっと照れてるの。
細木 いや、こういうの言いなれてなくて……。
和田が現れる。
和田 なにしてんの。
大野 ……奈美子。
和田 なにしてんの、みんなで。
大野 雪だるま作ってるだけだよ。
和田 ふーん。
大野 なに。
和田 遊ぶんだ。
大野 え?
和田 委員長さんが、遊んでもいいんだ。
大野 は?
和田 この前さー、雪私にぶつけたよね。
大野 ………。
和田 あれでさー、転んじゃってさー、家帰ったらさ、こんなに大きいかさぶたできてたんだよ。
大野 こける方が悪いでしょ。
和田 へー。(大野を倒す)
大野 いった。(こける)
和田 こける方が悪いんでしょ。
細木 やめなよ。
和田 細木さん。
細木 あんた、そんなことばっかして、恥ずかしくないの。
和田 えー。
細木 ガキ。
和田 えー、どっちが。
細木 ………。
和田 え、だって、見た目、全然細木さんの方が子供だよ。え、小学六年生にもなって、そんな髪型してるんだ。面白いね。
細木 うー、うるさい。
和田 なにその声。自分可愛く見せようとしてんの。
細木 だまれ。
和田 あんたがどさくさに紛れて、私に雪投げたせいで、かさぶたできたんだよ。
細木 ………。
和田 謝って。
細木 ご、
和田 ご?
細木 ご、
和田 ご?なに数字の5?
細木・重岡 ごめん。/ごはさん。
重岡、和田を押し倒す。
和田 なに。
重岡 ごはさん!
和田 は?
重岡 ごはさん、ごはさん、ごはさん!
和田 なんなの。
重岡 細木さん、謝る必要はないよ。かさぶたなんてさ、ツバつけとけばなおるんだよ。赤チンぬれ。赤チン。
和田 ………。
重岡 和田菜美子。よーく見ると、お前の唇かさかさしてんな。
和田 えっ。
重岡 冬のせいで唇が乾燥した時は、リップつけとけばなおるんだよ。メンソールのリップクリームぬれ。
和田 なによ。ひろしのくせに。
重岡 うるさい。黙れ。
和田 ……お母さんから、聞いたよ。ひろしん家のお父さん、死んじゃったんだよね。
重岡、和田を押す。
地面に倒れる和田。
大野 ひろし。(和田を押す)
重岡 お父さんのことは言うな。
和田 え、なぐるの。
重岡 黙れ。
細木 重岡くん。(和田を押す)
和田 ねぇ、私の部屋さ、ちょっと狭いから、お父さんに言って建て直してよ、ひろしくん。あ、もういないんだっけ。ごめんね。
重岡 ふざけんな。
和田 大工の息子が暴力していいんだ?
重岡 ばかやろう。
みんなで和田に攻撃。
橋本がスズキを肩車する。
スズキ やめろ!
みんなが和田を攻撃。
スズキ 喧嘩は止めようよ。
和田 え?
スズキ みんな、冷たすぎて、僕、でっかくなっちゃったよ。
和田 な、なにこいつ。
スズキ ぼくは、ユキオです。
和田 なんで、雪だるまが話してんの。
スズキ みんなの気持ちが集まってできたんだ。
和田 は?ちょーうける。え、元気玉?
スズキ、近寄る。(橋本動く)
和田 こないで。
和田、蹴る。
橋本、頑張る。
スズキ シャベルの音。ざくざく。女の子の泣く声。うわーん。ソファで跳ねる音。ぼよーん。殴り合う音。ドゥクシ。わき水の音。チョロチョロ。こたつでごろごろする音。ごろごろ。
スキーで滑る音。スイーっ。サイダーの音。シュワー。ドキドキする音。ドクンドクンドクン。
日高、現れる。
日高 ……なにこれ。
和田 あ、めぐ。なにしてんだ。こいつやれ。
日高 私、もう嫌だ。
和田 おい。
日高 あんたの言いなりになんか、もうならない。
和田 お前、いいのかよ。
日高 もう、やめてよ。
和田 めぐ。
日高 ………。
和田 許してやるから、こいつ、やれ。
日高 は?何言ってるの。
スズキ みんな、お願いだから、もう、やめて。
本田 めぐみ。
本田が現れる。
日高 あんた、なにしてんの。
本田 べつに。ただ、羽虫が目の前に来て、おっぱらっただけだよ。
日高 ふっ。
本田 めぐみこそ、何してんの。
日高 寄り道してたの。
本田 かっこつけんなよ。
日高 もう、菜美子なんて怖くない。
本田 え?
日高 ねぇ、しずか。
本田 うん。
日高 楽しい雪合戦しよう。
本田 うん。
本田も加わる。
スズキ なみぴょん。逃げて。みんな、やめろよ。おかしいよ、こんなの。ねぇ、みんな。
武田 和田菜美子。
武田が現れる。
全員 あつし!
本田 あつしくん。
武田 しずか、またせたな。
本田 うん。
武田 (ユキオに気付いて)うお、こいつなに。
スズキ ユキオだよ。
武田 ……わかった。
スズキ ねぇ、あつしくん、お願い、なみぴょんを。
本田 え、納得したの、この状況。
武田 いや、あんまり……。
本田 ……そんなんだからダメなの。
武田 え?
本田 そんなんだから、いつまで経ってもよわっちいの。あつしくんは。
武田 俺、強いよ。全キャラクターの必殺技全部出せるし。
本田 違う。
武田 バグ技も出せるよ。
本田 じゃあ、出せんの。
武田 え?
本田 今。必殺技。
武田 出せるよ、そのために来たんだから。
スズキ ねぇ、あつしくん、お願い。なみぴょんを助けて。
武田 え?
スズキ お願い。
武田 助ける?何かの間違いじゃないか。
スズキ ……みんな。
武田 わだー、お前の、ことを倒しにきたぞー。
和田 なんなの、さっきから。あんたたち。
皆、和田のまわりをまわる。
和田 え、いじめるわけ、私を。
武田 は?
和田 お母さんに言うよ。
武田 お前が、クラスのやつを今までいじめてきたんだろ。
和田 してないよ。
武田 したよ。
和田 してない、いじっただけだよ。
武田 言い換えるなよ。
和田 は?
武田 逆ギレすんな。
和田 もういいわ。
武田 違うだろ。お前が、悪いんだろ。
和田 じゃあ私、倒せばいいじゃん。私、死ねば解決?
スズキ ………。
和田 ねぇ、死ねば解決?
スズキ そんなことない。
和田 なんなの。あんた
スズキ なみぴょん。
和田 みんな、死ねばいいんだ。死ね。私も、死ね。倒せよ、バカ。悪いやつなんでしょ、私。
武田 あぁ。
和田 早く殺せよ。
スズキ みんな、お願いだから、もう、やめてよ。
武田、技を繰り出す。
みんなも復唱。
スズキ なみぴょん、負けないで。なみぴょんのこと、僕、好きだよ。本当は優しくて、誰よりも繊細で、怖がりで、本当はあったかい人なんだって、僕、知ってるよ。
ユキオ、溶け始める。
みんな、止まる。
重岡 ユキオ。
スズキ 大好き。好き。愛してる。可愛い。優しい。綺麗。元気。明るい。思いやりがある。
溶け始める。
重岡 ユキオ、やめてよ。
スズキ 素直。穏やか。声が可愛い。笑顔が素敵。大好き。大好き。大好き。大好き…。
重岡 なんで。なんで和田と友達になってんだよ。
スズキ ひろし。
重岡 わかんないよ。ユキオ、なんで。
スズキ 考えろ、ひろし。
重岡 どうやって考えるの。
スズキ 頑張って考えろ。
重岡 え?
スズキ 頑張って考えろ。
重岡 どうやって頑張るの。
スズキ 頑張って頑張れ。
重岡 ……お父さん?
スズキ ………。
重岡 お父さんでしょ。ねぇ、僕、会いたかった。お父さん、僕、お父さんのこと大好きだよ。
橋本がスズキをおろす。
スズキ もう、時間だ。
重岡 やだよ。
スズキ 子供だって、大人になる。もう、終わりだよ。
重岡 お父さん。好きだよ。
ユキオの身体が溶けていく。
重岡 あぁ。
スズキ 褒めるから。
重岡 どうしよう。溶けちゃう。ねぇ、かおりん。細木さん。なんで、みんな、気付かないの。
スズキ 見えてないんだよ。
重岡 え?
スズキ 見えなくなってるんだよ。
重岡 ぼくは?
スズキ お前だけ、まだ、子供なんだよ。
重岡 俺、大人だよ。
スズキ まだだよ。
スズキが身に付けているものをとりはずす。
重岡 ねぇ、お父さん、どうやったら、大工になれる。
スズキ なりたいのか。大工。
重岡 わかんないけど。
スズキ 頑張れば、なれる。
重岡 お父さん。
スズキ そういや、クリスマスプレゼントまだだったな。
重岡 え。
スズキ ちょっと早いけど、ひろし、メリークリスマス!
ユキオの身体が溶けて、その雪が吹雪となって、町を覆う。
スズキ ほら、ひろし、雪だぞ。あん時の雪。
重岡 え?
スズキ 雪だ。見てみろ、ひろし。
重岡 どこ、見えない。
重岡、鈴木と手を繋ぐ。
重岡 ねぇ、なんで雪って白いの。
スズキ 考えろ。
重岡 ねぇねぇ。なんでお父さんのチンチンってあんな色なの。
スズキ 考えろ。
重岡 どうやったら、大人になれんの。
スズキ ………。
重岡 ねぇ、なんで雪って白いの。
スズキ ………。
重岡 結局、教えてくれなかったじゃん。お父さん。
全員(重岡以外) 雪は、小さな結晶の塊でできています。その一粒一粒は透明であっても、その一粒の断面ごとに光を反射します。その光の乱反射によって全体としては白く見えるの
です。雪は記憶です。昔を思い出すのは、結晶を思い出すことと同じなのです。その結晶の一粒一粒、1シーン、1シーンが、ランダムに混ざり合って、昔を思い出す度に、その時の色
を作っていきます。本日はブルーノプロデュース第2回公演「カシオ」にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。昔を思い出す旅はこれでおしまいです。
猛吹雪で、あたりが見えない。
重岡 ねぇ、お父さん。教えてよ。
全員 今後の活動のご参考にさせていただきたいと思いますので、どうか、アンケートにご協力をお願いします。
重岡 嫌だ。
全員 本日はご来場頂きまして、誠に
重岡 お父さん。
猛吹雪。
重岡・全員 ねぇ。お父さん。/ありがとうございました。
暗転。
【21】カーテンコール
客電明かりがつく。
全員、立ち上がる。
礼をする。
重岡が、トンカチを持ったまま、立っている。
全員さる。
しばらくすると、吉川がやってくる。
【22】ひろしの部屋
吉川 ひろしー。
重岡 (トンカチを振り回している)
吉川 おーい。ひろし。
重岡 (トンカチを振り回している)
吉川 置きなさい。
吉川がマスに入る。
重岡がトンカチを置く。
吉川 置きなさい、それ。
重岡 置いたよ。
吉川 行こう。
重岡 ………。
吉川 なにやってんの。
重岡 大工の練習。
吉川 え。なんで。
重岡 ………。
吉川 そんなの後にしなって。
重岡 もうちょっとだから。
吉川 バカが練習できんの。
重岡 できるよ。バカ。先、行ってて。
吉川 先っていつ。
重岡 だから、まってって。
吉川 意味わかんないな。みんな待ってるから。
日高が現れる。
日高 ひろし。
吉川 ほら、来ちゃったじゃん。
重岡 知らない。
吉川 いいから、早く。(日高に)めぐみちゃん、先、行ってて。
重岡 先、行ってて。
吉川、重岡を攻撃する。
重岡 いってーな。
吉川 あんたが来ないから、こうなってんでしょ。
重岡 どこ行くの。
吉川 先。
重岡 さっき?
吉川 じゃなくて。先。小学校六年生の先。
本田が現れる。
日高・本田 ひろし。
吉川 行くよ。
重岡 どこに。
吉川 だから、
重岡 さっきに?
吉川 違う。先。
重岡 さっきがいい。
吉川 今より少し、昔、のその先。みんなが大学生だった時の、話。
重岡 やだ。
暗転。
【23】日高と本田
日高と本田が現れる。
()のところは雪を一つ拾って会話をする。
日高 ……懐かしいね。
本田 え?
日高 こうやって手繋いでるとさ、昔のこと思い出す。
本田 繋いだことあったけ。
日高 ほらっ、まだ私が菜美子にいじめられる前。
本田 ………。
日高 ホント懐かしい。
本田 ねぇ、そこ。なんかいない。
日高 ちょっと、やめてよ。
本田 光ってる。
日高 どこどこどこ。
二人、地面に落ちてる雪を拾う。
本田 雪?
日高 ガラスの破片みたじゃない。
二人、教室を見る。
本田 あ、ここ。窓ガラス割れてる。
日高 ホントだ。こわっ。
本田 けど、これ、ガラス一枚分じゃ少ないよ。
日高 え……。
本田 ほら、ずっと、向こうまで、ある。
日高 雪だよ、雪。雪の結晶だって。
日高、それを拾う。
日高 (ふっ。)
本田 なに。
日高 (もう、菜美子来るから。)
日高 ガラスじゃないよ。全然、指きれないし。
本田、それを拾う。
日高 大丈夫でしょ。
本田、手を払う。
日高 え、切った。
本田 (べつに。羽虫が目の前に来て、おっぱらっただけだよ)(変わったね、めぐみ)
日高 なに。
本田 え。
日高 ちょっとー、こわいよ。
本田 私、今、なんかした。
日高 あー、あーあーあーあ。
本田 あんたが言い出したんでしょ、肝試し。
日高 だって、こわいんだもん。
本田 けど、楽しいね。なんかこういうの。
日高 そう?
本田 あ。
日高 今度は何。
本田 合わせ鏡って知ってる。
日高 合わせ鏡。
本田 正面に鏡を一つ置いて。後ろにも鏡を置くの。で、鏡にうつった鏡の中に鏡がうつって、無限の鏡が存在する。合わせ鏡をすると、自分の未来が見えるんだって。あとは、呪文を
唱えると悪魔が通り過ぎたり、もう合わせ鏡した時点で死ぬっていう都市伝説もあって。
日高 なにそれ。
本田が、軍手を見つける。
本田 ねぇ、菜美子のことさ。覚えてる。
日高 え?
本田 ねぇ、しようよ。合わせ鏡。
日高 なんで。
本田 ……見たくない?将来の姿。
日高 え。やだよー。
本田 いいじゃん。
日高 ………。
本田 めぐみ、これ持って。
日高 ……うん。
本田 ……せーの。
日高の前には、ぼんやりと立っている和田の姿。
日高 なみこ。
和田 なにしてんの、めぐ。副委員長さん。
日高、本田、叫ぶ。
【24】大野と細木
()のところは台本コラージュ。
雪を一つ拾って会話をする。
大野 (細木さん。)
細木 (なに。)
大野 よかった。
細木 え?
大野 やっと話した。
細木 話すよ。
大野 (うちのクラスの細木香代子さんだよね、あなた)
細木 (え、わかんない。)
大野 違う違う。変わんなさすぎて、逆に。
細木 変わんない?
大野 うん、子供の頃と。
細木 あぁ。
大野 ……こうやって細木さんと話してるとさ、雪だるまのこと思い出す。
細木 あぁ。
大野 (ユキオ)
細木 うん。
大野 (違うの。学校終わったらさ、一緒に雪だるま作らない?)
細木 え、なに。
大野 あぁ、ごめん。ちょっと。
細木 え。
大野 昔のことさ、思い出しちゃって。
細木 (バーカ)
大野 (バーカ)
細木 (カーバ)
大野 (カーバ)
細木 重岡くん。今、どうしてるの。
大野 ………。
細木 大野さんさ、重岡くんのこと好きだったでしょ。
大野 え。
細木 (でも、ありえるんだよ。)
大野 え。
細木 (おかしいよ。変だよ、こいつ。)
大野 なに。
細木 (やっぱ溶かそう)
大野 いやだいやだ。
細木 (私が、重岡くんの、見張り役)
大野 ………。
細木 (重岡くん)(好き)
大野 だめ!
細木 ………。
大野 ………。
細木 まだ好きなの。
大野 いや、それはないと思うけど。
細木 本当?
大野 ていうか、全然会ってないよ。どこでなにしてるのかわかんないし。
細木 告白した。
大野 ううん。
細木 いいの。
大野 いいのって。
細木 しなよ、告白。
大野 無理だよ。何年も会ってないんだよ。
細木 行けばいいんだよ。
大野 どこに。
細木 昔に。
大野 え、できるわけないじゃん。
細木 できるよ。
大野 え?
細木 それができるの。
大野 ……もう一度、昔に戻りたいって、そんな願い、叶うわけないじゃん。
細木 (みんなー)
大野 もう、いいよ、細木さん。
細木 (みんなー、三分前だよ)
大野 (怒って)もう、昔には戻れないの。
細木 私は覚えてるんだからね。大野さんの声。毎日授業前にみんなを呼ぶ声。
大野 ………。
細木 いい。もう一度昔に戻って、私が廊下を走りきる前に告白するの。
大野 え、なにそれ。
細木 ほらっ、まずはトレーニング。「カエルの早口」
大野 「カエルの早口」
細木 「生麦生米生卵」
大野 「生麦生米生卵」
細木 「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた」
大野 「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いた」
大野・細木 言えた。
大野 ねぇ、細木さん、私、どうすればいいの。
細木 この廊下をまっすぐいったところ、6の4のクラスの前にひろしがいる。
大野 え。
細木 牛乳をこぼして、臭い匂いのするひろしが、いる。
大野 ……私、なんも準備してないよ。
細木 好きって伝えればいいんだ。
大野 今さらだよ。
細木 大丈夫。どんなに好きって言っても、溶けないから、あいつ。
大野 でも。
細木 あーもう、じゃあ、一緒に行くよ。
大野 うん。
細木 せーの。みんなー、かおりんの告白の三分前だよー。
二人は走り回る。
重岡が、やってくる。
大野 ひろし。
重岡 かおりん。
大野 おはよう。
重岡 おはよう。
大野 ギリギリ、
重岡 セーフ?
大野 アウト。
重岡 えぇ。
大野 ひろし。
重岡 なに。
大野 ……昔のひろしだ。
細木 いい、大野さん。私が廊下を走りきる前に告白するの。
大野 え、う、うん。
細木 いいから、頑張って。
細木、1マスにつく。
以降、細木が走り終わるまでに、大野の台詞が終わるようにする。
大野 あのーひろし、私、あなたのことが、
重岡 なに。
大野 す、す、す、
重岡 す?
大野 スケートって好き。
細木 (こける)違う。もうやりなおし。ごはさん。
細木、1マスにつく。
以降、細木が走り終わるまでに、大野の台詞が終わるようにする。
大野 あのーひろし、私、あなたのことが、
重岡 なに。
大野 す、す、す、
重岡 す?
大野 スイカって好き。
細木 (こける)違う。もうやりなおし。ごはさん。
細木、1マスにつく。
以降、細木が走り終わるまでに、大野の台詞が終わるようにする。
大野 あのーひろし、私、あなたのことが、
重岡 なに。
大野 す、す、す、
重岡 す?
大野 好き。
重岡 え。
大野 大好き、ひろし。
重岡 え。
大野 好き。
大野、うれしそう。細木、くたくた。
二人、その場を去る。
重岡、あんまりよくわかってない。
そこに吉川が現れる。
【25】吉川と重岡
吉川 あ、いたいた。
重岡 お姉ちゃん。
吉川 あー。途中でいなくなって。
重岡 だって。
吉川 行くよ。
重岡 どこに。
スズキが現れる。
スズキ ひろし。
吉川 ほら、来ちゃったじゃん。
重岡 お父さん。
吉川 いいから、早く。(鈴木に)お父さん、今、行きます。
重岡 どこ行くの。
吉川 あんたが、決めなさい。
重岡 え。
牧野が現れる。
スズキ・牧野 ひろし。
吉川 行ってきなさい。
重岡 どこに。
吉川 だから、ちゃんとするの。もうすぐ、大人になるんだから。
重岡 わかんないよ。
吉川 はい、行くよ。せーの。
重岡 待ってよ。
吉川、去る。
【26】スズキと重岡
スズキ ひろしー。
重岡 ………。
スズキ もう帰るぞ。
重岡 ………。
スズキ なにやってんの。
重岡 ………。
スズキ そんなの後にしなさい。
重岡 ………。
スズキ お父さんの手かりなくても、宿題できんのか。
重岡 ………。
スズキ ほんとか。
重岡 できないよ。
スズキ なんの宿題。
重岡 宿題なんか一人じゃ、できない。
スズキ ひろし。まだ冬休み前だぞ。
重岡 お父さんがいなきゃ、僕、何にもできない。
スズキ だから、先にやるのか。
重岡 お父さん。
スズキ お前、凄いな。いいから、帰るぞ。
重岡 お父さんが帰ってきてよ。
スズキ またない。
重岡 まってよ。
スズキ 風邪引くよ。
重岡 ありがとう。いつもいつも。ごめん。ごめんね。ごめんね。
スズキ こらっ。お前もだろ。
重岡 え?
スズキ いつも、ありがとな。
重岡 なんで。
スズキ、その場を去る。
重岡 お父さん。
【27】牧野と重岡
吉川 ありがとう。(10)ひく、ごめん。(5)ごめんね。(5)ごめんね。(5)たす、ありがと(10)では、5。
重岡 お姉ちゃん。
吉川 まだだよ。あと、5残ってるから。
重岡 うん。
牧野が現れる。
牧野 あ、ひーくん。ちょうど良かった。
重岡 うん。
牧野 これ、運ぶの手伝って。
重岡 うん。
牧野 少しだけでいいから。手伝って。お母さん一人なんだから。
重岡 うん。お母さん。
牧野 部活。
重岡 今まで、色々迷惑かけて、
重岡 ひーくん、お願い。
牧野 ごめんなさい。
重岡、謝る。
吉川 ひく5。はい、ごはさん。
幕。